だが、2019年が終わるころには、アップルやネットフリックス、グーグル、マイクロソフト、アマゾンといったいくつかのテック系企業がアメリカ市場を牽引し、史上最高レベルの10年間へ、そして記録的な高値へと導いていた。
企業利益と投資家たちの将来への期待が急上昇するのに伴い、S&P500指数の値はこの10年で3倍を超え、年平均の利回りは13.5%に達した。長期国債の利率は、4.65%から半分の2.35%まで下がっている。アメリカの失業率は、いまや3.6%という低水準だ。
この10年のあいだに、マリファナから暗号通貨、フェイクミートにいたるあらゆるものの株で、折に触れてバブルが発生した。中国株の詐欺や、バリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナル(Valeant Pharmaceuticals)のような散々な会社も少数ながらあったが、だいたいのところ、市場は健全さを保っていた。
2010年代のはじめ、S&P500の株価収益率は、当時沈滞していた企業利益の17.6倍だった。企業利益が株価とほぼ同様の勢いで上昇するのに伴い、その倍率は着実に伸び、現在は21倍となっている。
欧州の債務危機、フラッシュクラッシュ(瞬間的な暴落)、中国の関税まで、経済分野にノイズが満ちていたにもかかわらず、現在のような好調さが続いている最大の要因は、連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行が駆り立てている、調達しやすい資本の流れだ。
米国の金利は、2010年代の大半で0%近くに維持され、スイスや日本などの国にいたってはマイナスに転じている。この低金利と、配当利回りに対する圧力を背景にして、成長株がウォールストリートを先導してきた。特に目立ったのが、有形資産ではなくデジタル資産を持つ企業だ。IT、一般消費財、ヘルスケアといった分野の株がきわめて好調だった。
たとえば、グラフィックス・プロセッサメーカーのエヌビディア(Nvidia)、電子小売とクラウドサービス大手のアマゾン、半導体メーカーのブロードコム(Broadcom)といった会社は、2010年からの上昇率が1000%を超えている。
エネルギーなどのほかの分野は停滞していた。米国のエネルギー自立性の獲得に伴い、ヒューストンのアパッチ(Apache Corp)のようなエネルギー探査企業の株価は、この10年で74.5%も下落した。デボン・エナジー(Devon Energy)の株価は63%下落している。