少年院から世界へ、BAD HOPのYZERRが語るセルフプロデュース術

(写真)YZERR


YZERRによれば、現実は曲よりもさらに生々しく、ドロドロした世界だったという。同曲で歌われているような、貧困や借金、薬物依存、暴力団による借金の取り立て......こうした家庭環境はごく当たり前だったという。そうした環境で育ったYZERRも小学生の頃から盗みなどを繰り返した。「一般的な家庭とは違い、家族揃って食卓を囲んだ記憶も少ないです。いまならいけないことだとわかりますけど、当時は人のお金や物を盗んではいけないことが本当にわかっていなかったんです。 複雑な環境で育って来ましたけど、今振り返ると逆にその複雑な環境に感謝しています」と当時を振り返る。悪事は徐々にエスカレートしていき、14歳の時に少年院へ。送致され た少年院で問題を起こしたYZERRはさらに医療少年院へ送られた。

医療少年院での日々が、結果的に彼を変えていく。小学校高学年から2歳上の兄の影響でヒップホップを聞き始めていたYZERRは、「2歳上の兄と双子の兄、T-Pablowと当時ラップと呼んでいいのかわからないようなリリック(歌詞)を書いた手紙のやり取りをしていました」。

ラップだけではない、「これまで生まれ育った環境がいかに特殊であったかを、少年院のカウンセラーから告げられ、自分が生まれ育った環境の特殊性にはじめて気付きました」と語る。

また、医療少年院に収容されるまでの罪を犯してしまったものの、最後の歯止めをかけてくれ、育ててくれたのは祖母と祖父だった。祖母と祖父への思いは特別なようで、腕にタトゥーを入れている。

退院後、地元の先輩のイベントで、先輩から突然「ラップやってみろよ」と言われ、ステー ジに上がったことが始まりで、本格的にラップをはじめた。そのイベントの名前が「BAD HOP」で現在のグループ名の由来になっている。

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日本的習慣への違和感

現在、8名のラッパーの他、スタッフも含め気心の知れた15名で、コンセプトや楽曲制作からライブでの映像や照明、グッズ制作、DVDの販売まですべてを行っている。YZERRの役割は、アイディアを出し、決断すること。だからこそ、同グループの頭脳と言われている。それを各メンバーやスタッフに割り振り、実行に移している。
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文=本多カツヒロ 写真=小田駿一

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