米ペンシルバニア州フィラデルフィアにあるドレクセル大学工学部のマイケル・ウェアリング准教授(建築・環境工学)は「これはしばらくの間、一般的に誤解されていたことだ」と述べ、「植物は素晴らしいものだが、自宅や職場環境の空気の質に影響を与えるほど、室内の空気を素早く浄化することは実際ない」とした。
植物や花の購入は過去5年の間に人気が上がり、英国での生産市場の価値は13億ポンド(約1900億円)を超えている。しかし、一般市民が植物・花に対して理解していると思っていることが間違っている可能性がある。数十年にわたる研究を詳細に調べると、空気を浄化する上では部屋を自然に換気することが植物を置くことよりもはるかに効果的なことが示されたからだ。
ウェアリングとその博士課程の学生であるブライアン・カミングスは、30年にわたる12件の研究を調べ、その結果を英独学術出版大手シュプリンガー・ネイチャーの医学誌である暴露科学・環境疫学ジャーナル(Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology)に発表した。
今回の調査結果は、米航空宇宙局(NASA)が1989年に行った、宇宙ステーションの空気を浄化する方法を調べる有名な実験に反するものだ。NASAは調査の結果、空気中から発がん性のある化学物質を取り除くため植物を活用できるかもしれないと発表していた。
研究者らは次のように述べている。
「こうした調査にはありがちだが、鉢植えの植物は密閉された空間(容量は1立方メートル以下のことが多い)に配置され、そこにたった1つの揮発性有機化合物(VOC)が注入され、何時間、あるいは何日もかけてその減衰が追跡された」
VOCは標準室温で高い蒸気圧を持つ有機化学薬品で、欧州連合(EU)の定義によると初留点が摂氏250度以下の有機化合物は全てVOCだ。VOCは強い毒性を持たないが、頭痛や吐き気、肝臓や腎臓障害など、健康に長期的な影響を与える。米環境保護庁(EPA)は、屋内の空気のVOC濃度は屋外の2~5倍になることがあり、時には1000倍になる場合もあることを発見した。
VOCを除去する速度が高いのは換気
研究者らは、独自のレビューをさらに一歩進めるべく大量の鉢植え植物に関する研究からデータを集め、「清浄空気実現率(CADR)」と呼ばれる数値を計算した。こうした計算から、研究者らは植物がVOCを消す速度は建物の標準換気速度よりも遅く、植物は役に立たないことを発見した。
ウェアリングは、以前の研究者らが環境工学の視点から調査を実施しておらず、建物内での換気率がどのように異なるかを「理解していなかった」と考えている。
計算からは、建物の空気処理システム(あるいはただ家の窓を2つほど開けるだけでもよい)の自然な換気力と競うには、床面積1平方メートルあたり100~1000の植物が必要なことが示された。
ウェアリングは「これは確かに、時間がたつにつれて科学的発見が誤解を招くものになったり、間違って解釈されたりしかねないことを示す一例だ」と述べつつ、「一方で、私たちの周囲で実際に起きていることについて理解するための正しいデータに近づくには、科学調査で継続的に発見事項を再評価し、結果に疑問を持つべきだということも示す良い例だ」と補足した。