ビジネス

2020.01.01 08:00

武田薬品、巨額買収決断の裏で積み重ねられた「社員との対話」


普遍性の中にある革新性

未来の姿を共有し、変革の原動力に変える。社内の雰囲気も変わった。タウンホ ールミーティングでは、社員が気軽に手を挙げ、社長に直接質問を投げかける。社長室では定期的に、弁当を片手にタケダの現状や未来を語り合う若手や中堅社員の姿が見られるようになった。

「社内には競争環境があるべきだと考える人もいますが、それは間違いです。必要なのは、共に歩むという一体感です」

競争ではなく、協力関係を育みながらイノベーションを起こす。その姿勢は、神奈川・藤沢にある「湘南ヘルスイノベーションパーク」にも表れている。タケダは18年、同社の湘南研究所を創薬ベンチャーや企業、大学の研究者などに本格的に開放した。パートナーシップ連携を加速させるのが目的だ。

現在、同施設では山中伸弥の研究チームをはじめ、キリンホールディングスや日本IBMなど約60の企業や外部機関が、最先端技術の開発や活用に取り組む。19年11月、タケダは「5年以内に12の新薬を市場に投入する」と発表。新薬のパイプラインのうち50%がパートナーとの連携から生み出されたものだ。

科学が進歩を遂げ、R&Dの手法や戦略が変わっても、コアバリューやミッションは変わらない。普遍性の中にある革新性。それがタケダの強さだ。取材中、ウェバーの表情が輝いた瞬間があった。「モチベーションの源泉は?」と質問したときだ。

「日本以外では、製薬会社の評判は高くありません。私はこの会社を、高い名声を得られる会社にしたい。タケダを世界中の患者さんに貢献する真のグローバル企業にしたいのです」


武田薬品工業◎1781年創業、1925年設立の製薬会社。アイルランド製薬大手シャイアー買収により業界世界9位の売上規模に。研究開発費も3000億円規模から4000億円規模へ増加。2024年度までに14の新製品販売を予定している。

クリストフ・ウェバー◎1966年生まれ。フランス出身。英グラクソ・スミスクラインの仏法人やワクチン部門のトップなどを歴任し、2014年4月に武田薬品工業COO(最高執行責任者)。同年6月に社長兼COOに就任。15年4月より現職。

日本で最もイノベーティブな企業を選出した「GREAT COMPANY 2020」。ランキングは特設ページで公開中。

文=瀬戸久美子 写真=宇佐美雅浩

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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