現代のパトロンとも形容できるアートコレクター集団「Ibex Collection(アイベックス・コレクション)」の3人は、5年間、作品を売ることなく、巨額の出費を続けている。
将来的にそれらの作品を売りにかけることも計画しておらず、アーティスト支援は投機目的ではないという。この活動を通じて彼らが得るのは、3人がサポートする世界最高クラスの写実主義のアーティスト20人が仕上げる作品のみ。
潤沢な経済力を持つ彼らの精力的な活動の原動力は、どこから生まれるのか。ドイツ・アウグスブルクに拠点を置き、世界各国を訪れる3人のコレクターの日常に密着した。
アイベックス・コレクションでエグゼクティブ・ディレクターを務めるオーストラリア出身のデイビッド・ウィルソン(David Willson)には、自宅がない。
365日、ひとつの場所に長くても1週間ほどしか滞在しない生活を送る彼には、家を所有する意味がないのだ。
「世界各国を巡る生活を何年も続けていると、時差ボケも起こらなくなりました。飛行機から降りて、その地に足を着けた時から、体内時計も現地時間にぴったり合う。妻は一つの家に住みたいようですが、僕はこの生活が気に入っています」
デイビットと、彼の妻でもある、韓国出身のキキ・キム(Kiki Kim)は、ドイツ、スペイン、アメリカ、ロシア、中国、韓国、日本と世界各国に点在するアーティストたちのもとを定期的に訪れる。
ふたりのメインの仕事は、アーティストたちの創作活動の拠点であるスタジオに赴き、作品の進捗状況と今後の計画を確認すること。時には地元のレストランまで足を運び、共に食事を楽しみながら、プライベートな相談にも乗る。
アイベックス・コレクションに所属する他のアーティストとの交流を深めるため、また、作品のインスピレーションを得るために、一緒に海外へ旅にでることもある。
体力的にもハードなこの仕事からふたりが得る収入はゼロだ。しかし、アーティストたちだけではなく、このプロジェクトに携わる9名のスタッフには給料を支払い続けている。
4000人から選ばれた24人の才能の持ち主
彼らの活動において、金銭的なリターンの設定はされていないが、ゴールは明確に設定されている。
このプロジェクトは、4000人に及ぶアーティストたちを、絵画の質やコンセプト、メディア対応やコレクターたちとの相性を含むコミュニケーションスキルなどを項目に含む、50の審査項目から精査するところからスタートした。
審査を通過した約400人のアーティストと直接面接をしたのち、その狭き門を通り抜けた24人のアーティストたちと、金銭的、時間的にもリミットを設けずに「IBEX Masters(アイベックス・マスターズ)」は、2014年にスタートした。