5年間リターンゼロ。それでも巨額支援を続けるアートコレクターの日常

左から、アイベックス・コレクションのエグゼクティブ・ディレクター、デイビッド・ウィルソン。チーフ・キュレーターのキキ・キム。代表のアルバート・シュテッテン。



このプロジェクトの最終的なゴールは、世界トップクラスの才能と実力を兼ね備えたアーティストたちが、「傑作」と、その傑作に関連する作品数点を完成させること。

ここでいう傑作とは、アーティストとアートコレクターが、共に後世に名を残す作品だと認め合った作品のことを指す。

何をテーマに描くかはアーティストたちの自由。締め切りはなし、傑作を仕上げるまでのマイルストーンも設けない。プロジェクトが始まった直後の6カ月間、デイビットとキキは、アーティストたちに作品の進捗を聞くこともなく、創作活動に専念させた。

もちろん、その期間に作品を納品することも求めない。強いセルフマネジメント力を要するプロジェクトであることには違いないが、家族の不幸やアーティスト自身の健康上の都合以外で、ドロップアウトをしたのはただ一人だった。

現在、アイベックス・コレクションに所属するアーティストのほとんどが傑作を完成、または完成間近のところまで仕上げている。中には、すでに傑作を完成させ、次の傑作作成の準備段階に入ったアーティストもいる。


ドイツ・アウグスブルクに構える「アートラボ」内部の様子。この日まで、関係者以外を中に迎え入れることはなかった。

完成した作品は、アウグスブルクのオフィス近くで彼らが所有する「アートラボ」へ輸送され、ニスを塗られ、それぞれの作品に適した乾燥期間に入る。

この過程においても、コレクターたちの一流に対するこだわりが揺らぐことはなく、過去に『スター・ウォーズ』作品にも携わってきたようなテクニカル・アドバイザーが専任として監修に就く。2020年には、作品を限定公開するためのスペースも「アートラボ」内に設ける予定だ。

3人のコレクターの共通点

レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなど、ルネサンス期に活躍した芸術家の陰には、貴族、または協会を主とするパトロンの支えがあった。

しかし現在、芸術活動を支援する慈善団体などは存在するものの、アイベックス・コレクションのように、金銭的、時間的にも実質的な制限を設けることなく、芸術活動を支援する団体は他にない。

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文=守屋美佳 写真提供=Ibex Collection

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