ライフスタイル

2019.12.23 18:00

5年間リターンゼロ。それでも巨額支援を続けるアートコレクターの日常

左から、アイベックス・コレクションのエグゼクティブ・ディレクター、デイビッド・ウィルソン。チーフ・キュレーターのキキ・キム。代表のアルバート・シュテッテン。

左から、アイベックス・コレクションのエグゼクティブ・ディレクター、デイビッド・ウィルソン。チーフ・キュレーターのキキ・キム。代表のアルバート・シュテッテン。

アーティストたちが「傑作」を完成させるまで、平均月収の3〜5倍の給与を支払い、創作活動の上で必要となる備品も全て支給する。

現代のパトロンとも形容できるアートコレクター集団「Ibex Collection(アイベックス・コレクション)」の3人は、5年間、作品を売ることなく、巨額の出費を続けている。

将来的にそれらの作品を売りにかけることも計画しておらず、アーティスト支援は投機目的ではないという。この活動を通じて彼らが得るのは、3人がサポートする世界最高クラスの写実主義のアーティスト20人が仕上げる作品のみ。

潤沢な経済力を持つ彼らの精力的な活動の原動力は、どこから生まれるのか。ドイツ・アウグスブルクに拠点を置き、世界各国を訪れる3人のコレクターの日常に密着した。


アイベックス・コレクションでエグゼクティブ・ディレクターを務めるオーストラリア出身のデイビッド・ウィルソン(David Willson)には、自宅がない。

365日、ひとつの場所に長くても1週間ほどしか滞在しない生活を送る彼には、家を所有する意味がないのだ。

「世界各国を巡る生活を何年も続けていると、時差ボケも起こらなくなりました。飛行機から降りて、その地に足を着けた時から、体内時計も現地時間にぴったり合う。妻は一つの家に住みたいようですが、僕はこの生活が気に入っています」

デイビットと、彼の妻でもある、韓国出身のキキ・キム(Kiki Kim)は、ドイツ、スペイン、アメリカ、ロシア、中国、韓国、日本と世界各国に点在するアーティストたちのもとを定期的に訪れる。

ふたりのメインの仕事は、アーティストたちの創作活動の拠点であるスタジオに赴き、作品の進捗状況と今後の計画を確認すること。時には地元のレストランまで足を運び、共に食事を楽しみながら、プライベートな相談にも乗る。

アイベックス・コレクションに所属する他のアーティストとの交流を深めるため、また、作品のインスピレーションを得るために、一緒に海外へ旅にでることもある。

体力的にもハードなこの仕事からふたりが得る収入はゼロだ。しかし、アーティストたちだけではなく、このプロジェクトに携わる9名のスタッフには給料を支払い続けている。

4000人から選ばれた24人の才能の持ち主

彼らの活動において、金銭的なリターンの設定はされていないが、ゴールは明確に設定されている。

このプロジェクトは、4000人に及ぶアーティストたちを、絵画の質やコンセプト、メディア対応やコレクターたちとの相性を含むコミュニケーションスキルなどを項目に含む、50の審査項目から精査するところからスタートした。

審査を通過した約400人のアーティストと直接面接をしたのち、その狭き門を通り抜けた24人のアーティストたちと、金銭的、時間的にもリミットを設けずに「IBEX Masters(アイベックス・マスターズ)」は、2014年にスタートした。

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文=守屋美佳 写真提供=Ibex Collection

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