「ミドリムシで地球を救いたい!」
いきなり突飛なことをいうと思われるかもしれませんが、私はその実現を目指し、「ミドリムシが地球を救う」を会社のスローガンにもしています。なぜ、地球を救うことを目指すのか―。それは、ミドリムシによって実現したい2つの事柄があるからです。1つは、ミドリムシが備える栄養素によって、世界に10億人いるとされる栄養失調症に悩む人たちをなくすこと。もう1つは、化石燃料の代替として自然環境にやさしい「ミドリムシ燃料」を作ることです。
微生物であるミドリムシ、私の会社の名前でもある学名「ユーグレナ」には、これらを可能にするだけの優れた特性が備わっています。ミドリムシは、植物と動物の両方の特徴を持つ珍しい小さな藻類で、光合成を行って体内に栄養分を蓄えると同時に、動物のように動き回ることもできる。ミドリムシの体内に含まれる栄養素は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸など実に59種類にもおよび、光合成の際には油脂分も作り出します。
ミドリムシのこうした特性に着目し、私たちは2005年に世界で初めて屋外での大量培養を成功させました。現在は、栄養豊富な食材としての活用だけでなく、油脂分を抽出してバイオ燃料を作り出す研究にも取り組んでいます。
地球の人口は約70億人。そのうち、10億人、つまり7人に1人が栄養失調で苦しんでいるといわれます。彼らに栄養に富んだミドリムシを届けることができれば、この地球から栄養失調をなくすことができるはず。そこで現在、バングラデシュのNPOと協力し、約2,500人の小学生にミドリムシを配合したクッキーを毎日支給するという試みを進行中です。まだまだ10億人にははるかに遠い数字ですが、これを足掛かりに目標の達成を目指していきます。
このプロジェクトは、社会貢献活動の一環に見えるかもしれません。しかし、私は、社会貢献とビジネスの間に明確な境界線を引く必要はないと思っています。こうした活動の先には、イスラム教の国でもあるバングラデシュで培ったノウハウを生かしながら、18億人のイスラム圏市場を見据えてビジネスを広げていくという計画も描いています。両方の側面から“ 実” を取っていけばいいと考えています。
G1では、私は「G1 新世代リーダー・サミット(G1 U40)」のアドバイザリー・ボードを務めています。メンバーは全員40 歳未満。メンバーは、とにかく負けず嫌いが多い。このところ、「草食系」や「内向き志向」という言葉で若者を形容することが増えましたが、G1 U40 の参加者には、その形容詞は当てはまりません。確固たる志を胸に抱きながら前に向かって進もうとしている若い人たち。私の周りにはそういう人たちはたくさんいます。
問題は、彼ら彼女らにチャンスを与えることができるかどうかということ。例えば私たちのようなバイオベンチャーや大学発のベンチャーにはなかなか注目が集まらず、孤軍奮闘を強いられるような状況です。技術やアイデア、志が立派であるにもかかわらず、起業をしようとしても、また起業しても、相談に乗ってくれる人も少なく、投資してくれる人も限られているという厳しい現実があります。
このことは、私が身をもって体験してきたことです。東京大学からスタートした大学発のベンチャー企業で、しかも商品化しようとしているのは「ミドリムシ」。当初は、ムシと誤解されてキワモノ扱い。しかし今では事業化に成功し、東証一部に上場するまでに成長いたしました。どんなアイデアでも、たとえ周囲から成功しないといわれても、可能性がゼロということは絶対にありません。ミドリムシでも事業化を達成できたのです。若い人には、あきらめずにチャレンジしてくださいと言いたい。そして支援する方にはその若い人たちを応援してほしいと思います。
今後の目標は、東京でオリンピック・パラリンピックが開催する年でもある2020年に「ミドリムシ燃料」を使ったジェット機が飛んでいて、会場を行き来するバスもミドリムシ燃料で走っているということ。私は常々「昨日の不可能を今日可能にする」ことを掲げています。有言実行するために、全力を尽くしていきたいと思っています。