ビジネス

2019.11.26

勃興する「ライジングスター」たち──スタートアップの未来を読む

2019年、日本のスタートアップ・シーンでは、新しい主役たちの躍動が始まっている。


内視鏡画像を分析する人工知能(AI)開発のAIメディカルサービスは2019年10月、総額46億円の大型調達を行なった。主な投資家は、グロービス・キャピタル・パートナーズ、WiL、スパークス・グループ、ソニーイノベーションファンド、日本郵政キャピタル、アフラック・ベンチャーズ、菱洋エレクトロなど事業会社を含めた10社だ。

「国内よりも米国で大きく話題になった」と話すのは、創業前から支えるインキュベイトファンド・村田祐介。海外で注目を集める背景には、胃腸・肛門科の医師であるCEOの多田智裕(48)らが世界初の胃がんAI論文をはじめ、多くの論文を学会に発表し、学術界での評価が高いことがある。内視鏡医療という日本が世界をリードする分野で、世界的に活躍が期待されるスタートアップだが、設立は17年9月と創業から2年程度しか経過していない。

未来へのダイナミズムを感じる、創業3年目以内のライジングスター起業家たちの活躍──。19年の日本のスタートアップ・シーンは、こうした新しい主役たちが表舞台に立った1年だった。

その象徴的なスタートアップは、ギフトに特化したECサイト運営のGracia。同社は17年6月設立、CEOの斎藤拓泰(23)ら経営陣が大学生時代に起業した。経営陣は学生時代に、メディア事業を運営するCandleでインターンをする中で、同社のM&Aや、メディア閉鎖という紆余曲折を経て創業に至る。

また、彼らを支える投資家陣も豪華だ。グロービス・キャピタル・パートナーズ、ANRIなどのVCをはじめ、エンジェル投資家として福島良典(Gunosy創業者)、有安伸宏(コーチ・ユナイテッド創業者)、大湯俊介(コネヒト創業者)らが出資。起業家ランキング5位のミラティブ同様、これまでの日本のスタートアップ・シーンを支えたドリームチームが、次の世代へバトンを渡している。エコシステムが醸成される中から生まれた新世代のスタートアップだ。

もう一つの流れは、起業家ランキングTOP20のAnyMind Groupに代表される「アジア発グローバル」の起業家たちが誕生している点だ。同社は十河宏輔(32)が16年4月にシンガポールで設立。十河は、前職時代に海外ビジネスを統括してアジア6カ国で事業を立ち上げた経験を生かし、すでに11カ国13拠点に展開している。

さらに、大企業のスピンアウトとして設立されたスタートアップも注目を集めている。武田薬品工業からスピンアウトした新薬開発のコーディア・セラピューティクスは19年3月、ジャフコら国内VCから約30億円を調達した。同社は17年11月、武田薬品工業の研究体制再編に伴い、設立。武田の湘南研究所でがん領域の研究ヘッドだった三宅洋(48)が社長を務める。武田からは、「ドラックリポジショニング」のアーセムセラピューティクス、遺伝性疾患領域に特化したリボルナバイオサイエンス、認知症の非薬物療法に特化したAikomiら多くのスタートアップが生まれた。

現在、スタートアップシーンのトレンドは、1.既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)、2.ディープテックによる新産業創出、3.新しい世代によるニューカルチャー、4.連続起業家の挑戦。新たに加わるのが、5.インパクト・アントレプレナーの流れだ。起業家ランキング8位の五常・アンド・カンパニーの愼泰俊(38)、TOP20のライフイズテック・水野雄介(37)に象徴される、社会性と事業性を高度に両立させる起業家たちの存在も出始めている。

また、19年は、スタートアップの資金調達にも新たな流れが生まれた。フロムスクラッチが米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)から資金調達。SmartHRも米ライト・ストリート・キャピタルから調達するなど、海外投資家からの出資が増えた。IPO(新規株式公開)も、19年6月、名刺管理アプリのSansanが上場初日に時価総額1634億円を記録し、18年に大型上場したメルカリに続いた。12月上場予定のクラウド会計freeeも想定公募価格平均値で算出すると時価総額840億円の大規模な上場となる。

「アルゴリズムで社会の分断に対抗する」。起業家ランキング1位のスマートニュースの鈴木健、浜本階生は、壮大なビジョンを原動力に世界規模で社会変革に挑んでいる。彼らのように、ライジングスターがこれから本格化させる、数々の「良き社会への挑戦」は、未来の社会になにをもたらすのだろうか。
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文=山本智之

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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