地盤沈下が進んでいるベネチア水没は年に何度もあるが、近年水位が特に上昇しているのは温暖化による海面の上昇、および高潮のせいだと言われている。
度重なる異常気象による地球環境の悪化。国際的な取り組みとしては、2015年のCOP21で、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2度未満に抑え、今世紀中に人間活動による温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという「パリ協定」が合意されている。その後、アメリカが離脱を表明し、国際社会から批判を浴びた。
一方、事業運営を100%再生可能エネルギーで賄うことを決めた企業が加盟できる「RE100」には、各国の有名企業が参加し、グーグルやアップル、フェイスブックなどが、風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーに大規模投資している。
始まったばかりのこれらの取り組みが、果たして年々深刻化する環境悪化を食い止めることができるのか、まだ先は見えない。
というわけで今回は、グレタ・トゥーンベリさんよりずっと年上でずっと”過激”な環境活動家を主人公にした、アイスランドの映画『たちあがる女』(ベネディクト・エルリングソン監督、2018年)を取り上げよう。
グレタ・トゥーンベリさん(Getty Images)
肝の据わった一人の中年女性の戦い
背中に弓矢を背負った女が、緑の苔に覆われたアイスランドの原野を駆け抜け、空に向かって矢を放つ。……という、まるで神話か寓話の一シーンのような場面から物語は始まる。
しかし、彼女が狙ったのは送電線。そこにワイヤーを引っ掛けて引っ張りショートさせると、少し離れたところにあるアルミニウム工場が停電し大騒ぎに。すぐさま警察のヘリが犯人を探して上空に現れ、女は地面の窪みに身を隠す。
女の名はハットラ(ハルドラ・ゲイルハイルズドッティル)。多国籍企業のアルミニウム工場による環境汚染に以前から抗議してきたが黙殺され、今は単独で戦っている。送電線を切る妨害工作も既に5回目の彼女のゲリラ活動は、警察やメディアからはテロリスト集団の仕業と思われている。
このドラマは、アイスランドの自然への愛と地球環境問題への危機感をベースに、驚くほど肝の据わった一人の中年女性の戦いを、一風変わったタッチで描き出していく。