たった一人の戦い、アイスランドの環境活動家を支えたもの

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アイスランドの自然も、さまざまなかたちでハットラを守る。例えば、老人スヴェインビヨルンのトラックの荷台に隠れた時。一度目は苔のびっしり生えた毛布のような腐葉土、二度目はひしめき合うたくさんの羊たちが彼女の体を隠して、警察の目から逃げおおせる。

「親戚のお祝いに」という名目で花で満載にした車で検問を通過し、トランクに乗せた鶏糞を材料にして爆薬を作り、最後の仕事をしたハットラが、原野を走りながら執拗に追ってくるドローンと戦うシーンはスリリングだ。

警察ヘリの目から逃れるため、分厚い地衣類の下に身を隠し、岩山の裂け目に逃げ込み、山羊の死骸を頭から被って川に潜るハットラの過酷な逃走。スヴェインビヨルンが凍え切って歩けないハットラの体を沈めるのは、原野の中に湧いた温泉である。自然の恵みに助けられて、ハットラは生き延びる。

アイスランドの荒野に沸く温泉
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微妙な時期に養女の件が持ち上がったことで、彼女が相談に行くのは、双子の妹アウサ(ハルドラ・ゲイルハイルズドッティルの一人二役)。ヨガの講師で近々インドに行くというアウサは、全てを達観したような穏やかな女性で、闘争心を秘めたハットラとは対照的に見えるが、彼女の存在が突如大きなものになるのは終盤である。

この思いがけないどんでん返し、アウサの覚悟とハットラの選択に対して、評価は別れるかもしれない。しかしハットラが選んだのは、決して平坦な道ではない。それは、それまでハットラを守ってきた自然が、彼女と幼い養女の前に立ちはだかるラストシーンで、静かに示されている。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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