多くの航空会社がしているように、機内後方に座る客から先に搭乗させるのが速いだろうか? それとも、列を飛ばして交互に搭乗させるべきだろうか? あるいは、初めに窓側の席、次に中間席、最後に通路側の席に座らせる「WILMA」方式が良いだろうか?
その答えを見つけるべく動き出したのが、英ロンドンのガトウィック空港だ。同空港の101搭乗口では、大きな電光掲示板を使って乗客に搭乗順を細かに指示する試験が始まった。試験は2カ月にわたり、素早い搭乗と混雑軽減につながる方法を特定するため、さまざまな方式が試される。ただし、優先搭乗を予約した人や、特別な支援が必要な人、幼い子どもを連れた人は、試験中も優先で搭乗する。
ガトウィック空港のイネーブリング技術・デジタル革新責任者を務めるアビ・チャコによると、これまでの試験結果からは、この新手法によって全体的な搭乗時間が減るかもしれないことが示されているという。「乗客への情報伝達を改善し、乗客を座席番号に応じて搭乗させることで、搭乗体験全体をよりリラックスできるものとし、多くの乗客が殺到するような状況をあらゆる段階で防ぐことを期待している」とチャコは述べている。
しかし、これはそんなに難しいことなのだろうか?
ガトウィック空港は、こうした搭乗方法によって搭乗にかかる時間が最大10%削減されると予想している。しかしこれは、ノースウェスタン大学の天体物理学者ジェーソン・ステフェンの試算よりもかなり控え目だ。
ステフェンは10年以上前、さまざまな搭乗方法を試験するコンピューターアルゴリズムを作成した。ステフェンのモデルでは2008年、搭乗方法を最適化することで、航空機のサイズと席の配列によっては搭乗時間が4分の1以下になると結論づけられた。
偶然にも2008年は、アメリカン航空が米レガシーキャリア(既存の大手航空会社)として初めて全ての受託手荷物に追加料金を設けた年だ。主要航空会社の大半は、すぐにこの動きに続いた。よく飛行機に乗る人なら知っているだろうが、この方針転換により手荷物の預け入れを避ける人が増え、乗客が搭乗時に頭上の荷物入れスペースを奪い合うようになり、至るところで遅れが生じるようになった。
ガトウィック空港の試験について、どこかで聞き覚えがあるように思える人は、おそらく米ケーブルテレビのディスカバリーチャンネルが放送していた番組「怪しい伝説(Mythbusters)」を観たのだろう。同番組では2014年、200人近くのボランティアと航空機内部を模したセットを使い、6つの搭乗方法を試した。
その結果、後方から先に搭乗する従来型の方法にかかった時間は24.29分で、最も長かった。一方で最も短かったのは、席や搭乗順を指定しないサウスウエスト航空の搭乗方法で、従来型より47%速い14.07分だった。だが、乗客役をしたボランティアらは、この方法が最も不快だったとも述べている。
6つの方法の中で最善だとされたのが、窓側から順に通路側までを埋めるWILMA方式だ。搭乗時間は14.55分と1位に迫る速さで、参加者の間でも非常に評判が良かった。ステファンの方式はWILMA方式に非常に似ているが、窓側の席の乗客を一度に搭乗させる代わり、待つ人が出ないようより細かい順番を指示している。
ガトウィック空港での実験が終わった暁には、それがステフェンの研究結果や、航空会社が10年以上前から理解していたことを単に裏付ける内容であるかに注目しよう。