時価総額40兆円超えの大企業・アリババの創設者ジャック・マーは、大学受験に2度失敗していることをご存じだろうか。テスラやスペースXのCEOを務めるイーロン・マスクも、スタンフォード大学を入学3日目で中退している。
世界の仕組みを変えるトップ経営者でさえも、いわゆるエリートコースを歩んではいない。そう、いまは良い大学を出て大企業へ就職するような“エリート”だけが成功する時代ではないのだ。
2008年のリーマンショック、11年の東日本大震災などの社会を揺るがす大きな出来事が我々の生活を、価値観を大きく変えた。有名大学から有名企業へといったレールはもはや存在しない。しかし、これまで続いてきた現在の学校教育ではその変化に対応しきれていない。
これからの時代、私たちはどのようにして未来をつくっていけばいいのか。また、これからの未来をつくっていく秀でた才能をどのように見出し、伸ばしていけばいいのか。そのヒントを探りに、異能たちが集まる3つの機関を訪ねた。
出る杭は打たずに伸ばす
グノシーの福島良典、スマートニュースの鈴木健、プリファード・ネットワークスの西川徹、トレジャーデータの芳川裕誠……名だたるIT企業の経営者をはじめ、未来をつくる鬼才たちを多く輩出しているのが、経済産業省が所管する情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業(以下、未踏事業)」だ。
2000年度に「未踏ソフトウェア創造事業」として発足した本事業を牽引するのは、統括プロジェクトマネージャー(PM)の竹内郁雄である。
現在は人材発掘・育成に重点を起き、ソフトウェア関連分野で開発プロジェクトを立ち上げたい25歳未満のクリエイターの支援がメイン。
応募して採択された個人やチームには、最大230万円の委託金が支払われ、その分野の先駆者であるPMからプラン実現に向けたアドバイスがもらえる。
竹内は、未踏事業立ち上げ当初から全体を統括する立場にいた。20年近く続くこの事業に関わり、若い才能を目の当たりにしてきた竹内は「よい人材は育てるのではなく、生えてくるもの。生えてくるのに必要なのは、肥えた土壌ときれいな水、太陽の光。つまり、周囲の適切な環境整備なのです」と語る。