人々がスマホを通して触れる情報量は、10年前と比べものにならないほど膨大な量となっている。一方で、自分の頭で考える機会は減った。スマホで見つけた記事をブックマークした瞬間、その記事のことは忘れ、次はツイッターを開く。親指でどんどん別の世界に移動し続けている。しかし、実は頭では何も考えていない。ヌケメは現代のこうした状況に、警鐘を鳴らす。
「考えない状態は、権力者に支配されやすい状態とも言える。それに抵抗するためにも、自分の頭で考えるべき。誰もが世の中の複雑さ、情報の多さから目をそらさずに、何が起こっているのかを考える必要がある」
AIが人間の仕事を奪うという未来予測があるが、時代はまさにそういう方向に進んでいる。「人がやりたくない仕事は機械にさせればいい」という方向だ。その先に何があるのか。ヌケメは「遊び」の重要性を訴える。
もし働く必要がなくなったら、面白い遊びを考えられる人が誰よりも強い。「どのようにして暇をつぶすか」だけを考えて過ごす状況となりかねない。他方、「人生100年時代」も間近に迫る。つまり、知的好奇心がなければ長い人生に耐えられないというのだ。
こうした予測に基づき、ヌケメは「知的好奇心を呼び起こすもの」を世の中に仕掛け続けている。その「とっかかり」として違和感を使っているというわけだ。
「恐怖系マーケティング」が蔓延する残念な社会
ヌケメのもう一つの代表作が「TANUKI」というレーベルで出している「カレーT」だ。カレーの写真が生地のすべてにプリントされた、奇抜なデザイン。米国に存在するピザをプリントしたTシャツを見て、思いついた。
「TANUKI」というレーベルで出している「カレーT」。カレーの写真が生地のすべてにプリントされた奇抜なデザインだ
「やっぱり食べ物って生理的に反応しちゃう。なんだかちょっと気持ち悪い。食べ物の写真って、なんだか生々しい。こうした『気持ち悪さ』はマーケティングにおいても重要」
ヌケメは、人々の目にとまるテレビCM・広告は、「ちょっとした気持ち悪さ」が内包されたケースが多いとみている。美しい要素のみのクリエイティブは、刺さらない。「ちょっとした気持ち悪さ」が相手に「違和感」を与え、興味を持ってもらえる。結果、見てもらえる広告となる。
不安と気持ち悪さは全くの別もの。不安は思考を奪うが、気持ち悪さは問いを生む。ヌケメは、心地よい気持ち悪さとの出会いは、自分の感覚を新たに開発していくような面があると言い切る。
ヌケメが作品作りにおいて常に意識しているのが「問題提起」だ。例えばある作品では、受け手の意識が何によって作られているのか、という問いを投げかけている。
世の中のあらゆることが煩雑となり、何が課題なのかすら見えにくい。ある程度整理、もしくはピックアップして、課題を提示する。アーティストの立場で、これからもこうした「課題提示型」のコンテンツを出していくつもりだ。
ヌケメ◎1986年、岡山県生まれ。2008年より「ヌケメ」名義でブランド活動開始。2012年、コンピューターミシンにバグを発生させる作品「グリッチ刺繍」が、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出された。タイ・バンコクでワークショップ講師を務めるなど、世界中を飛び回る。
連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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