現地の人と同じく手で食べた、ソマリアのピラフ。
──永井さんが、日本人には馴染みのない食べ物を抵抗感なく食べることができるのはなぜでしょうか。
なんでもたくさん食べるために、気を付けていることもちろんあります。
免疫をつけるために現地の水道水を少しづつ体内に入れるようにして、それはもう色々な種類の薬を飲みます。
途上国や紛争地における食事や健康の面での注意点は、紛争研究修士過程時代に、元軍人によるマンツーマンの危機管理コースなどで叩き込まれています。
異なる文化への好奇心ももちろんありますが、もともと大食いで悪食なんです(笑)。
日本でよく食べるのは、「ラーメン二郎」。Lサイズの宅配ピザをひとりで食べますし、学部時代に食べていた貧乏飯もいまだに大好物です。
そしてやはり、現場で他者と良い関係を築く上で、彼らが大切にしている食べ物を同じように食べることは、仕事における戦略とも言えますね。
僕が普段仕事で携わるのは、テロ組織やギャング組織にいた人々や、さっぱり話の通じない現地コミュニティの人々。
文化的に大きく異なる他者たちと深い関係を築き、彼らを説得、交渉して彼らの人生をも変えてしまう仕事なので、いかに良好な関係性を築くことができるかがひとつの鍵となります。
だから、「現地の人と同じものを、同じ環境で、同じ文脈で食べること」を大切にしていています。
安全面を考えればホテルでの食事がベストですが、現地の人との関係構築を考えた時には、彼らの行きつけのローカルな店で、彼らが外国人の自分におすすめする食べ物を食べた方がいいんです。
こうして築く関係性は、会議室やレストランで行うミーティングなどでは決して生まれません。
例えばインドネシアでは、元テロリストの方々が、組織から抜けたのちに生計を立てるために露店を始めるケースが多いのですが、そういった人とコミュニケーションを取るのなら、お店まで食べに行くことが一番。そして現地の誰よりも多く食べる。
タバコや酒の嗜好品もまた然りです。ソマリアでは「カート」という草をひたすら噛んで仲間と時間を過ごすという習慣があるのですが、そういう場に参加をすると必ず夜が更けてしまいます。
僕は他の人よりもお酒をたくさん飲み、タバコもよく吸うから、現地の人と長い時間を過ごして会話をすることができるんです。
カートはソマリアやイエメンなどで嗜好品として嗜まれる草。渋柿と似ている味。コーラやガムと一緒食べると美味しいという。
相手の立場に立って考えればわかることですが、彼らからしたら、見知らぬ日本人に「テロリストの更生がしたい」と言われても信頼できるはずがない。
でも、日本人なのに現地の人と同じものを、それも大量に食べる人が来たら興味が湧きますよね(笑)。そこから徐々に会話に発展していくのです。
特にソマリアは、日本人からするとすごく遠い国で「怖い」というイメージくらいしかない。テロ件数は年600件を下回らない、僕も決して得意な場所ではありません。
それでも、そこには現地の人がいる。
テロリストと呼ばれる人も同じ人間で、私たちと同じように食べないと生きていけません。
人間の根源のところで繋がりを持つことができるならば、それを活かさない手はないと思っています。
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永井陽右◎NPO法人アクセプト・インターナショナル代表理事。1991年神奈川県生まれ。London School of Economics and Political Science紛争研究修士。早稲田大学在学中にNGO「日本ソマリア青年機構」を設立。2017年に「日本ソマリア青年機構」をNPO法人化し、「アクセプト・インターナショナル」と改称。現在は国連人間居住計画において暴力的過激主義対策メンターとしても活動している。2018年「30 UNDER 30 JAPAN」選出。