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2019.09.28 12:00

ネットフリックスの「影の創業者」マーク・ランドルフという男

Marc Randolph (Photo by George Pimentel/Getty Images for Audi)

Marc Randolph (Photo by George Pimentel/Getty Images for Audi)

有料会員数1億5100万人を誇るネットフリックスの共同創業者で、初代CEOを務めたマーク・ランドルフを知る人は少ない。ランドルフは1999年にCEOの座を共同創業者のリード・ヘイスティングスに譲ってプロダクト開発を手掛けたが、IPOから1年後の2003年に同社を去った。
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「私は透明人間なんだよ」と、彼は自嘲しながらも現状に満足している様子だ。ランドルフは、ネットフリックスがストリーミング業界の巨人になる前に退職したことを後悔していないという。

9月に発売された彼の自伝「That Will Never Work: The Birth of Netflix and the Amazing Life of an Idea」は、ネットフリックスの従業員がまだ8人だった1997年から話が始まる。当時、米国ではDVDが普及し始めたばかりだった。本の中でとりわけ印象的なのは、1998年にヘイスティングスとランドルフがアマゾンへの事業売却を検討したという秘話だ。

2人はシアトルでジェフ・ベゾスと面会したという。ランドルフは、ベゾスの笑い声がアニメドラマのキャラクターのようだったと回想している。ベゾスは、買収金額として1400〜1600万ドルを提示したという。
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当時、ネットフリックスは設立から1年しか経っておらず、ランドルフは妥当な金額だと思ったが、ヘイスティングスは否定的だったという。2人は帰りの飛行機の中で、アマゾンに身売りするメリットとデメリットを議論した。DVD販売は儲かっていたが、レンタル事業の売上構成比は3%に過ぎず、会社全体は赤字だった。今後、DVD販売でアマゾンと競合するのは目に見えていた。

「あの時は、企業規模が大きく、資金力も豊富なアマゾンに身売りすることが最善策のように思えた。その一方で、あと少しで何か大きなことを成し遂げられるという手ごたえもあり、今はまだ時期尚早だと考えた」とランドルフは本の中で述べている。

結局、2人はアマゾンの買収提案を断り、DVD販売事業を閉鎖してレンタル事業の強化を図った。アマゾンがDVD市場に参入すれば、敵わないことは明らかだったからだ。

この判断は正しく、ネットフリックスは時価総額1290億ドルの企業にまで成長した。ヘイスティングスは株式の2.5%を保有し、その価値は33億ドルに達する。ランドルフがIPO時に保有していた株式の価値は、現在の株価ベースで2億5000万ドルほどだが、その大半は既に売却済みとみられる。

スタートアップのカオスと興奮

彼は自伝の中で、「投資家は経営幹部による自社株の大量売却をネガティブに捉える」と述べ、取締役を退任したことで気兼ねなく持ち株を売却できたと記述している。ランドルフはより大きな富を得るチャンスを逃したかもしれないが、その代わりに家族と過ごす時間が増え、他の起業家のメンターとなるなど、好きなことに時間を注いでこれたという。

ランドルフが起業家のメンターとなる決断をしたのは、自身が起業家だった頃を懐かしんでのことだという。ネットフリックスを起業した当時、成功と失敗の狭間で毎日がエキサイティングだったという。
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編集=上田裕資

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