Holistic education(全人教育)とは、昨今では使い古された言葉かも知れない。しかしここには、一人一人の子どもの個性や特徴を理解して、それと向き合いながら学業だけでなく人としての成長を促そうとする、真剣で熱意溢れる希望に満ちた教育者たちの姿があった。
それこそがBoutroux夫妻が30年以上にわたって追求したあり方で、欧州各地や遠くは中国からも、この学校に子どもを通わせるためにCrans Montanaに移住する家族までいるというのも頷ける。
スイスの学校は、理数系科目があまり強くないことがアジア人生徒にとっては悩みの種になりがちだが、Le Regent Collegeでは全校が同じ時間帯に算数/数学を学んでいるため、算数だけ何学年も飛び級することが簡単にできるそうだ。また、小学4年から、理科は担任の先生ではなく理科教員の指導資格を持った専門家が教えている。
さらに、英語が母語ではない生徒のためにESL、ピアノやバイオリンをやっている生徒のために放課後の個人レッスンが用意されており、はたまた昨年度からは日本語を指導できる先生も着任している(これ自体は、実はスイスのボーディングスクールにおいてはさほど珍しいことではない)。
私たちが運営するUWC ISAKも含め、一般的に新設校は莫大な建設費のかかるスポーツ施設を持ちにくく、伝統校のように広大な敷地を用意できるところも少ない。また、都会にある学校と違って、既存の周辺施設を借りるようなこともアレンジしにくい。
しかし大自然の中の立地は、そこに天然のスポーツ環境があることも意味する。Le Regent Collegeでは毎週末のようにCrans Montanaや周辺のスイスアルプスの山々へトレッキングツアーが開催される。冬には週3回スキーの授業があり、そのシーズン券は最初から授業料に含まれている。
小学校、学費は1年325万円から
気になる授業料を恐る恐るウェブサイトで調べてみると、小学校部門は通学生で年間3万スイスフラン(約325万円)、寮生は年間6万スイスフラン(約650万円)。依然として目が飛び出るような金額ではあるものの、これでもスイスの名門校に比べると3〜5割低めで、米国のボーディングスクールでも超少人数制の学校であればこのくらいの金額も稀に見ることがある。
しかし、日本の一般家庭では到底手の届かない金額。そこで奨学金制度について尋ねてみると、16%の生徒に奨学金が給付されていると言う。それでも制服やら生活費やら、何もかもスイスは高そうだけれど……と聞くと、制服などは上級生が着たものをユーズドで奨学生に譲っているという。
こうした教育が、少しでも多くの生徒に開かれたものになってくれたら更に理想的だなと思いながら、美しいキャンパスを後にした。
同校ではサマースクールなどを開催しておらず、残念ながら短期でここの教育を受けることは難しい。しかし、一年単位での留学は受け入れている。日本人家庭で奨学金を得られる可能性はわからないが、スイスを訪れる機会がある方には、一度Le Regent Collegeへの(できれば学期中に生徒がいる期間の)訪問をお勧めしたい。
連載:日本と世界の「教育のこれから」
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