米陸軍予備軍警察の元中佐であるストックは、多くの軍関係者の家族を支援し、子どもが米国市民として認められるために必要な書類の連邦当局への提出をサポートしてきた。
「海外で米国市民の親の下に生まれた子どもの国籍を証明するのに現時点でかかるコストに基づくと、憲法修正第14条の市民権条項を変更すれば、米国内で新たに子どもを持つ親には国籍証明のため新生児1人当たり600ドル(約6万4000円)ほどの政府手数料がかかる。さらに法務費用として追加で600~1000ドル(約6万4000~11万円)ほどかかるだろう」
「これにより、米国で生まれた子どもには、1人当たり1200~1600ドル(約13万~17万円)の“税金”がかかる。また同時に、この法律がもたらす米国への不法入国抑止効果は小さい。現在の推定では、連邦政府への直接的な手数料は年間24億ドル(約2600億円)に達する見通しだ」
米国では毎年約400万人の子どもが生まれており、新法によりコストと官僚的手続きが山積する可能性が高い。この分析は2012年の数字に基づいているため、現在のコストはさらに高くなるだろう。
出生地主義を廃止することの社会的影響を分析した移民政策研究所(MPI)のマイケル・フィックス上級研究員は、米国の最善の利益を考えるならばこのような政策を支持すべきではないと考えている。
「現実はこうだ。出生地主義制度を廃止することで、何世代にもわたり社会に所属できない永続的階級が生まれる」とフィックスは指摘。「片方の親が非正規移民である新生児に米国籍を与えないシナリオだと、非正規移民の人口が現在の1100万人から2050年には2400万人まで膨れ上がることが、私たちの分析で分かっている。(…)支援者らは不法入国を減らす解決策だとうたっているが、廃止により実際には真逆の効果が生まれてしまう」と述べている
出生地主義の廃止により、片方の親の法的資格が子どもの運命を左右し得ることになる。これは事実上、親が誰であろうと関係ないとする米国の理想の劇的な変化を意味する。フィックスは「米国で生まれた人の、米国で生まれた子どもや孫、ひ孫らが、先祖に法的資格がなかったことを継承するという概念は、社会的一体性や民主主義そのものの強さに大きな影響を与えるだろう」と述べている。
トランプ大統領が出生地主義の廃止を提案したら、裁判所は承認するだろうか? 米政治ニュースサイト「ポリティコ」のテッド・ヘッソンは昨年10月、「大統領令を使い、米国で非米国籍者や非正規移民の下に生まれた子どもたちに出生地主義による市民権付与を拒否するというトランプ大統領の提案は、各政治勢力全体を通じて法律専門家からの支持が実質的に全くない」と指摘した。マーガレット・ストックらは、出生地主義の廃止には憲法の修正が必要だと考えている。
トランプ大統領は、裁判所に無効にされることを承知で大統領命令を出すこともいとわないかもしれない。しかし、長年にわたり続く出生地主義制度の変更を求める人々は、その廃止が米国人の親や米国社会にもたらす影響について説明することが求められるかもしれない。