カフェには、ドリンクやフードを提供する以上の役割があるというのは周知の事実だと思います。では、そんなカフェを「空間デザインの視点」で掘り下げていくと、どんな世界が見えてくるのでしょうか?
著書「カフェの空間学」を出版されたばかりの建築事務所PuddleのDirector、加藤匡毅氏に、カフェと空間デザインの関係性やそこから生まれる社会的な役割について話を聞きました。
──カフェを空間デザインの視点で考察する本を出版されたそうで。
% ARABICAやDANDELION CHOCOLATE(ダンデライオン)など、カフェの空間デザインを手掛けていることもあり、日本でも海外でも、旅や出張時は必ずカフェに行き、その空間を感じたり、写真を撮っていました。それらをまとめた本を出しませんか? と出版社からお声がけいただいたんです。本を作っていく中で改めて情報を整理し、思考を深めていくことで、自分自身もたくさんの気づきがありました。
ぼくの中で“カフェ”というと、人が集まって、テーブルを囲んで、そこにコーヒーがあって……ということではなく、さまざまな目的を受け入れる器というイメージが強い。その原風景は、20代の頃に働いていた「IDEE」というインテリアショップにあったカフェ。そこには、家具を買いに来て休憩している人、ランチに来た近隣の人、デートしているカップル、時にはぼくたちスタッフと、いろいろな人たちが混ざり合い、多くのコトが起こっていました。
学芸出版社から発売される加藤氏著の「カフェの空間学」。蔵前にあるダンデライオンの竣工前の写真も掲載。
──本に出てくるカフェの中で、特に印象に残っているお店はどこですか?
表紙にもなっているベルリンのボナンザというカフェです。古い建物のリノベーションで、特に何か新しいことをしているわけではなく、もともとあった空間の要素を少しづつ削ぎ落として、ミニマムに仕上げた空間です。
ただお店に入ると4本足で抜け感のあるテーブルがドーンとあって、そこにコーヒーマシーンがあってバリスタがいて、お客さんとの距離がもの凄く近い作りになっている。「ちょっといい? 」と言ったら裏側まですべて見えてしまう。
こんなにもお客さんとバリスタの関係が近くていいのか、とその関係値のフラットさに感銘を受けると同時に、日本では衛生管理上の問題でその距離感では営業できないこともあり、デザイナーとしてこの寛容さに嫉妬すら覚えました。
実際にコーヒーを提供してもらうまでのコミュニケーションがすごく緩やかで、「いらっしゃいませ」のようなかしこまった空気感は微塵もなく、常識やルールに捉われない自由な空気感があります。このように、空間のすべてを作り込んだり、飾りつけて主張するのではなく、本当に朝コーヒーを1杯飲んで、「おいしいね」という何気ない会話やコミュニケーションにフォーカスしたデザインは好感が持てます。