ぼくはあくまで点を置きにいったという認識ですが、それを使っていく人やそこに訪れた人が、どうしたら自分ごとのように語れるか、ということは常々意識しています。
それによって点が線になり、やがて面になって広がりをみせていく。もちろんそこまでが空間をデザインするという範疇だとは考えていますが、それは自分だけで行うものではないとも思っています。使っていく方や訪れる方など立場は関係なく、一緒になって良い空間を作り上りあげていくという感覚です。
──確かにどの空間も加藤さんらしいですが、どこか入り込む余地も残っているような。
もちろん最初は単焦点的にぼくの感覚をぶつけていくんですが、時間をかけ、空間を組み立て、さまざまな人と関わっていく中で、いつしか境界線が曖昧になったり、たくさんのものが融合してユニークな方向に向かったりと、偶発的に魅力を醸成していくことがほとんどです。
Puddleって英語で「水たまり」という意味なんですが、水たまりに一滴の水を垂らすと美しい波紋が広がっていきますよね。そのような広がりが自分にとっては心地が良く、その心地よさを提供できたらと思っています。
──加藤さんの空間には、常に人々がフラットであるべきという思想を感じます。
人々を平等に、とか、公平性を、というような大それたことは考えていないのですが、自分がデザインした空間にいる瞬間だけは、すべての人々がフラットであってほしいという想いは根底にあります。
いろいろな国にお邪魔すると、まったく違う価値観や生活環境、貧富の差など、それらは事実としてある。でもそこに物申したり、平等化していこうよと強く働きかけることよりも、どんな人が来ても楽しめる空間をデザインすることで、少しでも多くの人々に自由だったり、心地よさを感じてもらうことがぼくの役割ではないかと思っています。
幸いにもぼくが携わらせてもらったカフェの多くを「いい場所だ」と、いろいろな価値観や国籍の方に評価をいただくことが増えてきました。権力やお金、人種など関係なく、万人が「いいな」「心地良い」と感じる空間を提供できているとしたら嬉しいですね。そういった場所を水たまりのようにあちこちに増やし、いつしかそれらが繋がって存在感を増し、社会をよりフラットで心地よい空間にしていけるなら、それ以上喜ばしいことはありません。
加藤匡毅◎一級建築士。隈研吾建築都市設計事務所、IDEEなどを経て、2012年にPuddleを設立。建築からインテリア、真空管アンプの開発に至るまで、心地よい空間を生み出すためのすべてをデザインする独自のアティチュードで、世界から注目を集めている。2019年『カフェの空間学 世界のデザイン手法』(学芸出版社)を上梓。
連載:クリエイティブなライフスタイルの「種」
>>過去記事はこちら