──カフェのデザイン=お洒落というイメージがあり、過剰なデザインになりがちですよね。
デザインをする時ってどうしても飾りたてようという気持ちが働きますし、他との差異を作ることで際立たせようとしがちなんですが、やはり一番大事なのは、自分たちの足元を掘って、そこからいいと思うものを引き出していく、という作業だと思います。オーナーも設計者もお客さんも一緒になって掘る作業ができると、とてもいい空間になります。
例えば、三軒茶屋にあるBlue Bottle Coffeeは、この作業がなされていると感心しています。ここは裏通りのしかも奥まった場所にあるので、普通ならサインをたくさんつけたり、人を誘導するようなデザインを行いがちですが、お店までの長いアプローチに驚くほど何もないんです。
全てをそぎ落としているからこそ、雑多な三茶の街の中で際立つようにデザインされている。お店の空間だけで捉えるのではなく、街との関係性を踏まえた上で自分たちの強みや良さを表現しているという点が、とても秀逸だと思います。
──加藤さんが手掛けられた% ARABICAやダンデライオンは、どのような意図をもってデザインされたのですか。
カフェでもレストランでも、基本的にはお客さんが主役です。でもぼくは、お客さんの前に働く人たちが主役でもいいんじゃないかと思っています。働く人たちの方がその空間に長くいますし、その人たちがふてくされるような空間だと、絶対にお客さんにいい影響を及ぼしません。
お客さんに過剰にフォーカスするのではなく、その空間にいる全ての人がフラットで心地よくあることが、結果的に良い空間になると考えています。
ぼくたちはリノベーションを行うことが多いのですが、リノベをするにあたり、その空間がそれまで培ってきた物語に耳を傾けます。この空間は何をずっと持ち続けてきたのか、何を残してほしくて、何を新しくすると喜ぶのか、というスタディにものすごく時間と労力を割くんです。
蔵前のダンデライオンでは、壁を剥がすと美しい木々の姿が現れたので、時間を視覚化するような感覚でデザインしました。またカフェではないですが、城崎温泉にある昔の検番をリノベした際は、屋根裏からとてつもなく素晴らしい梁が出てきたんです。あまりにも美しいのでそれをすべて残し、そこから逆算するデザインをしていきました。
加藤氏が友人に依頼されて設計を担当した“KINOSAKI Residence”。「LIXIL×Houzz "キッチンで暮らす"施工事例コンテスト」で金賞を受賞。
──この城崎温泉の物件はちょっとした観光スポットになっているようですね。
この物件が一つできただけで、城崎の街が本当に変わったんです。Uターンで戻る人が増えたり、近くにカフェやワインバーが出来たりと、地域活性化に繋がっています。