グーグルは2014年に6億5000万ドル(約690億円)を投じて、ディープマインドを買収した。スレイマンは同社の現CEOのデミス・ハサビスと共に、その4年前に同社を設立していた。
スレイマンはAIの実用化を目指す「applied AI」チームを率い、英国の国民保健サービス(NHS)と共同プロジェクトを実施した。彼らはStreamsと呼ばれる医療データ収集アプリを開発し、NHSとデータ共有を行っていた。しかし、Streamsが160万人に及ぶ患者のカルテを、違法に収集しているとの批判を浴びて2017年にはプロジェクトを中止し、スレイマンは謝罪した。
グーグルは昨年11月に、Streamsとそれに関わるチームをグーグル本体に吸収すると発表し、事実上、ディープマインドの医療チームは解体された。
一方で、applied AI チームは、グーグルクラウドのテキスト読み上げプロジェクトや、グーグルのデータセンターの冷却システムの開発を手伝っていたという。ニュースサイトThe Informationは2018年4月の記事で、「スレイマンらはディープマインドの収益化のプレッシャーにさらされていた」と伝えていた。
グーグルの親会社のアルファベットは個々の事業の収益を開示していないが、英国の企業登録機関Companies Houseの直近のデータで、2018年のディープマインドの損失は5億7000万ドルで、売上は1億2500万ドルだった。
スレイマンは元社会活動家で、ビジネス・インサイダーの記事によると「資本主義は人間社会を破壊する」との信条を持っていたという。彼はAIが備えるべき倫理についても独自の考えを持っていた。
彼は2018年にWIREDに寄稿した記事で「本当の意味で、倫理的なAIが一体どういうものであるのかを、時間をかけて考えるべきだ」と述べ、AIが社会に与えるインパクトがいかに大きなものであるのかを、指摘した。
グーグルがディープマインドを買収した際に、彼やハサビスらはAIに関する倫理委員会の設置を求めていたという。グーグルは今年3月、AIの適切な運用を監督するための外部委員会を立ち上げ、責任あるAIの発展を目指そうとした。
しかし、このプロジェクトは「委員の人選が不適切である」との強い反発を浴び、わずか10日足らずで頓挫していた。