この4月、不動産会社エイブル主催「ABLE DESIGN AWARD(エイブルデザインアワード)」の審査委員長に推挙され、イタリアのミラノサローネに参加してきた。
ABLE DESIGN AWARDは大学生を対象にした空間デザインコンペティションだ。10回目を迎える今回は「Laugh─幸せを呼ぶ空間─」をテーマに、1次の書類審査、2次のプレゼンテーション審査を勝ち抜いた東京大学、多摩美術大学、京都造形芸術大学と、海外招聘組として参加するミラノ工科大学、セントラル・セント・マーチンズ(ロンドン)の計5校が、会期中10万人は訪れるというスーパースタジオで実物大の作品を展示した。
グランプリに輝いたのは、千利休作といわれる国宝の茶室「待庵(たいあん)」をモチーフとした、東京大学の「Particles behave.」─通称 “揺れる茶室”だ。
構造としては、まず2畳の部屋を両面鏡やガラスで彩られた3重のフレームが取り囲む。畳の下にはスプリングが施され、2重目のフレームのみ滑車を通して畳とつながっていて、部屋に人が入るたびに畳の揺れに合わせて光が反射するという仕掛け。幻想的、かつ茶室という独特の空間の魅力を反映したユニークな作品だった。
ほかの作品も簡単に紹介したい。多摩美術大学の「DHARMA1°」は、赤、黒、白、金に塗られた数十本のカラフルなスチールパイプがある角度から見たときだけ、両目を見開いた達磨(だるま)に見えるというからくり。京都造形芸術大学は日本の伝統の発信を目的に、人が中に入れるほど大きな和提灯を作製。素材はエジソンの開発した白熱電球のフィラメントにも用いられた京都・石清水八幡宮の真竹が使用された。
興味深いのは5校いずれも、人が集って自然とコミュニケーションを取りたくなる「場」を提案してきたことだ。建築というと、家や建造物のようなハコそのものを思い浮かべがちだが、「この指とまれ!」という場の力、人を引き付けるためのデザインや概念こそが建築であると言ってよいのかもしれない。
その場に集まった人たちからどのような会話が生まれ、価値ある時間が紡ぎ出されていくのか─それこそが建築本来の課題なのではないだろうか。