小山薫堂が考える「究極の別荘」の条件

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建築について思考する旅が呼んだのだろうか、先日美瑛の別荘計画が再燃した。登山の趣味が高じた美瑛の奥さまがエベレストに挑戦することになって、東京で壮行会を開いた際、久しぶりに隈さんと「やっぱり別荘を建てよう」と盛り上がったのである。

僕があらためて隈さんに伝えたのは、ル・コルビュジエの「カップ・マルタンの休暇小屋」へのオマージュ的な作品にしたいということだ。南フランスのコートダジュールの海岸線を行くと、イタリアとの国境にカップ・マルタンという小さな村がある。コルビュジエは自身と妻イヴォンヌのため、この村に約8帖の別荘を建てた。トイレとベッドと洗面器、それに棚と机が設けられただけの狭小建築で、コルビュジエは妻亡きあとも休暇のたびに通い、1965年、小屋の目の前の海で海水浴中に亡くなったという。

20世紀の近代建築に多大な影響を与えた偉大なる建築家、ル・コルビュジエ。そんな彼が愛した自作の建物が、この8帖の空間であったことに僕は非常にシンパシーを感じた。日本には「起きて半畳寝て一畳」という言葉があるけれど、真の贅沢な空間とは広さや大きさ、華美な建築ではないように思う。

家族や友達を呼んでわいわいと過ごす時間は素晴らしいもので、もちろん否定はしない。だが、ひとりでふらりと訪れ、好きなウイスキーを飲みながら読書や思索にふける──それがいま美瑛の地に建てたいと夢想する、僕の“小屋”だ。世界に一点しかない絵画を所有するような気持ちで、建築を考える。なんて、ちょっとロマンが過ぎるでしょうか。

イラストレーション=サイトウユウスケ

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小山薫堂の妄想浪費

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