契約問題なので、こうしたことは力関係によって状況は多少変わってくる。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、過去には、プリンスがワーナー・ブラザースと対立し、衣装や化粧でまったく別人のようにして演奏し、「これは別人だ!」と、契約からの離脱を図ったことがあるという。
プリンスがこだわったのは、やはり過去の自分の原盤権の獲得だ。最終的には2014年に、新アルバムをワーナーから出すことを条件に、原盤権をやっと手にした。
テイラーが所属していたビッグ・マシンというレーベルは、年間100億円を売り上げ、40億円もの収益を挙げるという有良企業で、カントリーミュージックの聖地、ナッシュビルに本社がある。社長のボーチェッタと新オーナーのブラウンは数十年来の友人とのことだ。
しかし、テイラー自身は年収200億円と、ビッグ・マシンの倍を稼いでいる。ブラウンは、ジャスティン・ビーバーのマネージャーでもある実力者で、今回の事象は、大物シンガーと渡り合うために、レーベルとプロダクションとファンドがタッグを組んだという見方もできる。
折しも全米で「Yesterday」が大ヒット
テイラーの過去の宿敵で、和解してからはとても仲がいいことで知られる歌手のケリー・クラークソンはツイッターで、過去の6枚を再レコーディングするように促している。テイラーよ、新バージョンでオリジナルと戦え、ということだ。
テイラー・スウィフト(右)とケリー・クラークソン(その横、2009年撮影、Getty Images)
これは逆を言えば、テイラーほどの大物でも、過去の音源はあきらめたほうがいいというふうにも聞こえる。WSJによると、2006年にはビートルズの生存メンバーが、EMIレコードに対して、同じ理由で同じ試みをしたが、ビートルズでさえ失敗に終わったという。
折しも6月28日、全米で「Yesterday(イエスタデイ)」(日本公開は10月11日)という映画が公開され、大ヒットしている。突然、社会の歴史が歪み、「ビートルズのことを自分以外だれも知らない」という異世界が生まれ、そこでビートルズの名曲を唄うことによってスターダムにのし上がる新人アーティストの話だ。
見方によっては、これは、音楽業界の著作権と原盤権についての映画だ。ネタバレを回避するためにストーリーは詳しく明かさないが、音楽作品の権利は誰にあるのだろうかということを、深く考えさせる作品でもある。
アーティスト、レーベル、プロダクション、そしてファン。収益の適正分配もそうだが、アーティストにしてみれば、直接ファンとつながりたいという意識もあろう。一方で、レーベルやプロダクションにしてみれば、自分たちのブランドとパブリシティ・マーケティングなしでは、新人はいつまでたっても無名だという認識のはずだ。
かつてはレコードで聴くことしかできなかった音楽が、デジタル時代となり、いろいろな形をとって降ってくる。技術が革新し続ける限り、それぞれの考え方の違いがぴったりまとまるということは難しいかもしれないと思わせた。音楽はいったい誰のものなのだろうか?
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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