長時間労働、低賃金が常態化している美容業界の労働スタイルを一掃して、美容師の社会的地位向上を図るAgu.グループ。 掲げるビジョンは「美しい生き方をデザインする」。そこには、まずその生き方をデザインすべきは、顧客よりも美容師だという思いが込められていた。
傍から見ているだけでは、Agu.グループは美容業界で伸び盛りのフランチャイズ・チェーン(FC)ということしかわからない。しかしその内部構造は、有機的に絡み合った特異なビジネスのフォルムを形成している。
今回は、アジア有数のファンド・CLSAキャピタルパートナーズとの資本提携を経て進化を加速させる同グループの戦略モデルにフォーカスし、FCオーナーのPuzzle代表取締役・丹内悠佑、ビサイド代表取締役・曽我克、BELLTREE代表取締役・鈴木紀彦の3人に話を聞いた。
まずはスタイリストの生き方から「ブランドビジョンである『美しい生き方をデザインする』はトップダウンで生まれた言葉ではありません。FCオーナーたちが集まるなかで自然発生的に生まれてきたフレーズでした」(丹内)
その言葉は資本提携をきっかけに大きく羽ばたくために、対内的にも対外的にも大切なビジョンとなったという。
「グループ代表の市瀬一浩は“スタイリスト(美容師)が働く環境を改善したい”という一心で起業しました。その思いはいまも変わっていません」(曽我)
曽我 克 ビサイド代表取締役
FC第1号にして、超個性的なAgu.グループのFCオーナーをまとめ上げることができる唯一の存在として信頼される。グループ歴7年目で埼玉県を中心に約40店舗を経営する35歳。Agu.グループで働くスタイリストは、業務委託契約。そのため労働時間の裁量は働き手次第、ワーキングマザーが時短などの働き方を実践できるのが特徴だ。
「千差万別で多様性のある働き方を認めたい。それこそが各人の美しい生き方をデザインすることになるからです。顧客の前に我々はまず、スタイリストの環境を重視するのです」(鈴木)
ファミリービジネスとしてのFC「よく驚かれるのは、フランチャイズだけれど商圏がないことです。それでも各オーナーは皆、自社の利益よりも同グループとして出店すべきかどうかをまず考える。それが他のチェーンにはない特徴ですね。 以前、あるFCオーナーの店舗が繁盛したとき、近くにもう1店舗出店したいが資金面で実現できないという話がありました。 そのときは、資金を自分が出して、任すという方式をとりました。この柔軟さがAgu.らしさと言えます」(鈴木)
鈴木紀彦 BELLTREE代表取締役
トーキョー美容師(クラブイベント)、AWARD(グループ内表彰制度)の企画運営面を担う。5年という短期間で、現在神奈川県を中心に40店舗を経営する32歳。さらにメンバーの独立を後押しする方法も独特だ。以前、鈴木のもとに地元で独立したいというメンバーがいた。しかし、単独出店では事業リスクが不透明なうえ、効率が悪く広告宣伝費もかけられないという課題があった。そこで鈴木がとった戦略は、その1号店を成功させるために、周辺に3店舗を出すという大胆なものだった。
「こうした行動をとれるのは、徹底したWin-Win-Win(関係者全員が成長する)の精神がAgu.にあるからです。まず先に与える。人材を育てることも、店舗に投資することも根幹は同じです」(鈴木)
結果的にこのケースでは、独立したオーナーが周辺店もマネジメントすることで、鈴木にも大きな利益をもたらしたという。
スタイリストの満足が顧客の満足へ繋がり、事業成長の好循環を生み出す。「こうした複雑なことができるのはAgu.だから。徹底的なFace to Faceのコミュニケーションを続けて、オーナー同士にも家族のような信頼関係が生まれているからこそできることです」(曽我)
本部から発信された思いは、各代表が店舗を回り、マネージャー(店長)に伝え、そこから各スタイリストへと伝播される。このデジタルの時代に珍しい手法だ。しかし髪を切ること自体、AIロボティクスではとって代われない接客技術。Face to Faceはむしろ自然なことなのかもしれない。
多岐にわたるバックオフィス・サポートそしてFCオーナーのメリットとして忘れてはならないのが、専門家集団によるバックオフィス機能だ。これらが人事労務から給与計算、決算までをサポートするため、オーナーたちは経営戦略や人材育成に存分に専念できる。
「優秀な(店舗統括)マネージャーや店長が増えれば、売上は増加します。彼らに対して多岐にわたって学ぶ機会を提供するのは当然と言えます」 (丹内)
丹内悠佑 Puzzle代表取締役。圧倒的な統率力でAgu.グループの成長に貢献を続ける。現在は海外事業の立ち上げにも参画。東北地方を中心に6年目にして約90店舗を展開する33歳。しかし、そもそもの問題として、スタイリストになりたい人間の絶対数を増やさなければ、その方式にも限界はある。そのためにAgu.がとった施策は、給与を四大卒の初任給水準以上にまで上げるというものだった。これは美容業界においては非常に大きなインパクトとなった。それまで「収入が安いから」とスタイリストの夢をあきらめさせていた親も、反対する理由がなくなってしまうからだ。
「週に3回、就業時間内にしっかり練習させて、十分な給与も払う。これは高校生が職業選択をするときに、大手企業と同じ土俵でスタイリストの道を選べるようにするための戦略です」(丹内)
成長に不可欠な人材確保にも万全な環境を整えるAgu.グループ。今後は“憧れ”も育てたいという。
「スタイリストはやっぱり、かっこいいのです。だから業界のカリスマ美容師たちを集めてのクラブイベントも始めました。これはAgu.のためだけじゃない。憧れを与え、未来のスタイリストを集めるための投資、これも立派な美容業界へのGiveだと信じています」(鈴木)
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