ビジネス

2019.06.20

渋谷の「落書き問題」 解決の突破口はオープンセッションにあった


その混沌とした状態を打開したのが、オープンセッションだった。

このセッションでは、新たに、「渋谷区の落書き問題を“楽しく”解決するにはどうしたら良いか?」という問いを設定し、メンバー自身がファシリテーションを担当。実際に落書きをしたことがある人、書かれたことがある人、落書きを消す活動に参加したことがある人、そして区の所管部署のメンバー、本来であれば対立しがちなステークホルダー同士が集い、対話を通じて相互理解が増し、様々なアイデアが出てきた。



よくあるアイデアソンなどでは、「貴重なアイデアありがとうございました」とあっさり終わるケースもあるだろうが、「渋谷をつなげる30人」のユニークさは「思わずアクションしたくなるワクワクするアイデア」がうまれるところにある。

このセッションを踏まえてうまれたアイデアは、「クリスマスの午前中に、とにかく皆でワイワイ落書きを消すイベントを開催してみる」ことだった。ここからチームの動きは速かった。

渋谷区が、国の所管する地下道の清掃許可を申請し、ビームスが活動専用のオシャレなビブスを作り、東急不動産が落書きを消す部隊を揃え……たったの1時間で、落書きだらけで暗かった地下道が綺麗に明るくなった。皆の顔に充実した疲労感と今後の活動への希望が見えてきた。

このクリスマスの活動をきっかけに次のアイデアが出ると、迅速に動いたのがボッシュだった。自社の高圧洗浄機など多くの器具を渋谷区に寄贈することを決定し、実際にその器具を使って落書きを実践。その様子をPRムービーと仕立てて公開した。



その後、センター街の死角となるエリアや代官山でのレストラン脇の壁面の落書きを消し、またビームスによる新しいユニフォームのプロデュースなど次々と活動を展開。今年度、一般社団法人設立へ向け動いていくこととなり、現在登記申請中だ。この渋谷での取り組みをモデルに、落書きに悩む観光地へと繋げていくことも大きな目標にしている。

“つながる”から“つなげる”へ

このプロジェクトのポイントを整理すると、以下の6つが挙げられる。

・行政が困っているけれど、解決できていない領域に取り組んだ
・1対1ではなく、複数の関係者が動いている
・企業の利益の最大化に貢献している(人材育成、PR、物品販売、CSR、など)
・対立しがちな複数のステークホルダーが関わっている
・組織内の縦のつながり、組織外の横や斜めのつながりが活きている
・行政予算の出動や新しいチャレンジがほとんどなくスピーディーに対応できた

ビームスの中村さんはこのプロジェクトを振り返り、以下のように語っている。

「最初はこの活動を通じて自社どんな利益があるのかと考えていたのが、最後には、自分の会社(立場)を使ってどのようにすれば、この活動を面白くできるかと考えるようなりました。 文字通り“つながる”から“つなげる”に意識が変わっていったことが、私の中での一番大きな変化です。

その“つなげる”ことができる人こそがイノベーター人材だと考えており、クロスセクターイノベーションとは単に領域を超えたつながりを作ることではなく、当事者を増やし、自身のリソースをどのように活用しながら他者と協力関係を築いていくかが重要であることを、渋谷をつなげる30人から学びました」



次回以降は、また別のプロジェクトの紹介を通じ、メンバーや組織の変化していったプロセスに焦点を当てていきたい。

連載:渋谷区から始めるコレクティブ・インパクト
過去記事はこちら>>

文=加生健太郎

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