「自分の国籍を誇りに思う」 逆境を乗り越え続けた、ある北朝鮮代表の告白


本田圭佑との知られざる“兄弟愛” 

安にとって、出会いを語る上で欠かせない人物がいる。それは今や起業家としても活躍している本田圭佑だ。本田は安のことを「ヒョンニン(兄さん)」と言って慕っている。2005年、安が名古屋グランパスに移籍した時、本田圭佑は星稜高校を卒業してルーキーとして同クラブに入団。2人の縁はそこから始まる。出会った当初の本田について安は「今と変わらず、本気で大きな夢を語る男だった」と振り返る。

2006年、安は韓国・Kリーグの釜山アイパークへ完全移籍し、本田と一緒にプレーする機会はなくなってしまったが、12年の時を経て、2人はまた交わった。2018年7月、安は本田を神奈川朝鮮学校に招いた。普段本田とは連絡をほとんど取らないと話していた安は、なぜ本田を朝鮮学校に招いたのか。そこにはどんな思いが隠されているのか。

その経緯と真実をインタビュー形式でお送りする。

機会があったら「夢を与えてくれないか」

──神奈川朝鮮学校に本田さんをお招きしましたよね。どのような経緯でそうなったのですか?

昨年4月、板門店で行われた南北首脳会談の翌日、本田から急に連絡が来たのです。

「北と南の代表が会って話し合った事実を嬉しく思います。ヒョンニンはどう思いますか?」という質問でした。本田とは普段ほとんど連絡は取りません。

最初は「何だ急に」と思いましたよ(笑)。その後、彼には「在日同胞にとってたいへん喜ばしいニュースだ」と伝えました。本田は「それを聞いて僕もうれしく思います。2度とあのような日には戻ってはいけませんね」と返信してくれました。

その数日後に「ヒョンニン、ツイッターに投稿しました」と、再び彼から連絡がきました。ツイッターの投稿を見ると「南と北の友人たち、おめでとう。乾杯」という言葉が書かれていたんです。

文在寅大統領と金正恩委員長が握手をしている写真も添えられていました。僕を通じて在日の心情を理解した上で投稿したと思うんです。その気遣いがとても嬉しかったです。


神奈川朝鮮学校に訪問した本田圭佑と安英学

お礼を伝えると同時に、もし一度機会があったら朝鮮学校に来て子どもたちに夢を与えてくれないかお願いしてみたんです。そしたら即答で「もちろんです」と返ってきたんです。

朝鮮学校で本田は子どもたちに「大きな夢を持ってほしい。人に笑われても良いから、大きな大きな夢を持ってほしい。そして常にその夢を意識して諦めないでほしい」と語ってくれました。

「日本と朝鮮半島の間には悲しい歴史があるけれども、お互いに努力してポジティブなものに変えていきましょう」と、小中高すべての子どもたちに伝えてくれました。子どもたちにとってはこれほど嬉しくて頼もしい、そしてありがたいことはないと思います。
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文=裵麗善(ぺ・リョソン) 写真=小田駿一

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