意外な分野とは、まずアメリカへの海外旅行だ。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、中国政府は、今週、自国民のアメリカへの旅行者に、安全面での危惧を根拠に、自粛を促した。安全面での危惧とは、アメリカで発生する銃の発砲や強盗、盗難のことで、そこには中国人旅行者固有の危険の指摘はない。
あるとすれば、中国人がアメリカの空港の入国審査で不愉快な扱いを受けたというものだが、これは日本人だって多くの旅行客が受けている扱いであり、決して中国人旅行者だけへの差別ではない。隣国のカナダ人でさえ、アメリカ入国でいろいろと不快な体験をしている。
アメリカでの中国人旅行者のブランド物「爆買い」は、かつてとは様相が違ってきたとはいえ、いまでもビバリーヒルズの高級店や、マンハッタンの五番街のブティックはたくさんの中国人旅行者で溢れており、最大の客層だ。1回の旅行で平均約20万円の買い物をする外国人は中国人をおいてほかにない。
差し迫った安全保障の懸念もなく、中国が旅行者に自粛を促すというのは、あきらかにアメリカへの報復だと見られてもおかしくない。中国の統計局によれば、年間1億6000万人が海外旅行に出ていて、アメリカへの経済効果は3兆円にも上る。ここに自粛がかけられると、アメリカの観光業や高級品の小売業には大きな痛手になると、WSJも懸念を報じている。
中国人留学生は「いいお客さん」
さらに、中国からのアメリカ留学も減少に転じている。留学受け入れは、長年、アメリカの大きな貿易外収入だった。去年、2018年まで増え続けてきた中国人留学生数は、年間37万人にものぼるが、これは圧倒的トップの数字だ。
アメリカの大学は、その巨額な授業料で知られるが、ほとんどの大学がさまざまな奨学金を用意しているので、優秀なのに家が貧乏だから大学に行けないという話はこの国にはない。そのかわり、外国人には奨学金制度がほぼないので、中国からの留学生は、1人当たり年間1000万円前後するような授業料を払ってくれる、「いいお客さん」でもある。
アメリカの各大学が、外国人留学生の獲得に熱心で、外国に事務所まで置くのは、そのためであり、今の高額な授業料と広範な奨学金制度を維持するには、現金でズバッと支払ってくれる中国人留学生が必要なのである。