経済・社会

2019.06.12 16:00

「ブロックチェーンで正直者がバカを見ない」エストニアで挑戦する若き日本人

Blockhiveの共同創業者 日下光

仕事、学び、そして人生。あなたを取り巻く環境から、肩書きや社会的な立場を取り除かれたら、目の前にはどんな世界が広がるだろうか──。「電子国家」として名を馳せるエストニア。世界中どこでも働ける「デジタルノマド」を支え、エンパワーする5人の起業家を本誌副編集長の谷本有香が取材した。

そこから見えたのは、個人の偏愛や嗜好性が際立つ「私が主役」の世界だった。テクノロジーによって新しい働き方を実現する未来を先取りし、誰もが主役になれる世界。今、新しい旅が始まる。


CASE 4 Trust × Blockhive

エストニアが国家主導で構想を進めている仮想通貨、エストコイン。実は、その政府のエストコイン推進プロジェクトの検討委員に、日本人がいることはあまり知られていないだろう。

日下光、30歳。ブロックチェーン技術を活用したソリューション開発や資金調達のためのプラットフォーム事業などを手掛けるBlockhiveの共同創業者だ。 日本でブロックチェーンの受託開発をしていた日下は、2017年4月にその地に降り立った。エストコイン構想が発表される4カ月前という「ベストタイミング」だった。

だが、なぜエストニアでなければならなかったのか。電子居住制度「e-Residency」を活用すれば日本にいながらブロックチェーン先進国のエッセンスを得られるのではないか。

「確かに、エストニアはブロックチェーン大国といわれています。けれど、それは目に見えません。社会インフラとして電子政府を基盤にブロックチェーンの要素技術を使い、すでに生活の中に組み込まれています。これに成功している国はエストニアだけ。だから、1、2日の視察だけじゃ絶対に分からない。この国を支えるブロックチェーンを真に知るためには、この地にいる必要があるんです」

一考すれば、目に見えないところで私たちの生活を便利にするインターネットも同じだ。日下は「ブロックチェーンを皆が当たり前に使える世界」を思い描く。

いま最も注力しているのは、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の可視化だ。いつ、どのように社会や人に貢献したのかをブロックチェーン上に記録することで、個人の「信用」と「信頼」が視覚化できる。

これらを個人にひもづく「信用ID」として、企業やコミュニティを超えてデータを移動し、利活用できるインフラ整備を始めている。個人のエンパワーメントにもつながる。資本主義社会では生産性や効率の追求、資本の最大化が重要視されてきたが、彼の見通しはこうだ。

「これからは、あらゆる個人が居場所を見つけられる時代になっていく。ソーシャル・キャピタルが見えるようになると、生産性や効率では測れない、個人の新しい価値を、自身も、お互いにも、発見しやすくなるのです。つまり技術が信用を担保してくれます」

では、日本ではエストニアのようにブロックチェーンで繋がる社会が実現するのだろうか。日下は「日本では規制が厳しいなど悲観的な声もあり、それは半分正しい」と指摘する。

だが「小さなコミュニティでの推進」に着目し、「東京だと共通のUnity(団結力)を持ちにくいけれど地方に可能性を感じています」。同時に「行政のデジタル化は必須」として将来、日本への技術導入も見込む。

今でもブロックチェーンは、仮想通貨やフィンテックなどの文脈で語られることが多いが、日下はじっとソーシャル・キャピタルに言及するタイミングを待っていた。「今年のテーマは『Back to the basic』です。ブロックチェーンによって正直者がバカを見ない未来が、ようやく見えてきました」。

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文=谷本有香 写真=ビルギット・プーヴ、アンドレス・テイス

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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