そこから見えたのは、個人の偏愛や嗜好性が際立つ「私が主役」の世界だった。テクノロジーによって新しい働き方を実現する未来を先取りし、誰もが主役になれる世界。今、新しい旅が始まる。
CASE 3 Bond × Toggl
アインシュタインの相対性理論によれば、そもそも絶対的な「現在」というものは存在しない。けれど、私たちは常に「時間」という概念に縛られながら、いまもその「現在」を生きている。
もし、その「縛り」から人間が解放されたら?そこに真実の「価値」が見えてくるかもしれない。
そんな取り組みをしている企業が、2012年から時間管理アプリケーションを展開するTogglだ。 オフィスには、春先なのにいまだにクリスマスの装飾で彩られている。「ここで、オンライン参加型のクリスマスパーティーを開いたんだ」。共同創業者のクリスター・ハーヴが笑いながら言う。
一見、理想的なオフィスなのに違和感を感じるのは、150人以上入りそうな空間に彼たった一人しかいないからだろう。「他の人は?」と尋ねると、「皆、世界のあちこちで、リモートで働いているよ」。
ソフトウェアを開発し、企業向けにカスタマイズしたりする業務を行っていたクリスターらは、まず自分たちのために時間管理ツールを編み出した。
ツールを通じて請求書作成などに活用していたところ、顧客から「私たちも使わせてほしい」というリクエストが届くようになったという。それがTogglの誕生につながった。 最初は数千人しかいなかったユーザーが、いまや週に40万近いアクティブユーザーに恵まれ、サービス全体では数百万人まで成長した。
スタッフもまた、世界に約75人の従業員を抱えている。「従業員の出身国は、南極以外の大陸すべて。だからいつも冗談で、早く南極から人を連れてきて、全大陸制覇しようと言うんです」。 ただ、「質」の良い人材集めには苦労し、当初は欲しい人材には高額な給与を支払わなければならなかった。
しかし、あることをしたら、どの職種でも2000人以上の候補者が応募するようになった。その「ある工夫」とは何なのか。「私たちがしたのは、遠く離れたところからでも雇用できる体制を整える。たったそれだけでした」。
フレックスタイムだけでなく、フレックスプレイスという概念を打ち出したのだ。それは、自主性を重んじた企業の働き方宣言でもある。
「スタッフが世界中にいるからこそ、主体性と自由を認め、細かいことを指示するようなマイクロマネジメントはしません」 彼らが提供する時間管理ツールによって、精神上「時間の支配」から解放された。時間と場所から解放された「仕事」。そして、その先にある「自由」──。手抜きをする人はいないだろうか。
「そこで重要なのがチームなんです。Togglには大小合わせて様々なチームがあり、仕事をしない人がいたり、本音を言わない人がいれば、すぐにメンバー内で明らかになる。チャレンジを楽しめない人はチームにも会社にも必要ありません」 人が自由を手にした時、仕事に向き合うメンバーの横をつなげる「信頼」と、縦をつなげる「目的意識」という絆が必要だ。その機能性を目視できるのは、チームという最小単位のコミュニティなのである。