ビジネス

2019.06.03

「過去への感謝が原動力に」 起業家 樋口亜希を救った言葉とは

Selan代表取締役 樋口亜希


──今まで会社を経営してきた中で、ワクワクした瞬間はどんな時でしたか?

やっぱり、初めてお客さんがサービスを利用してくれた時ですね。自分が命名して命を吹き込んだ「お迎えシスター」が自分の手を離れて、働くお母さん、お父さんのためにちゃんと貢献し、そのご家庭の生活の一部になっているのを見た時の感動は、きっと一生忘れないと思います。

あとは、第一号の先生がサービスをきちんと届けてくれた時も、大きな幸せを感じました。初めは、私が先生をやって一人でサービスを回していましたが、先生を採用し、その先生に教え方を教えて、ちゃんとその価値が生徒と親御さんに伝わり、それに毎月お金を払ってくださる方がいる。今まで一生懸命作ってきたものは、やっぱり間違ってなかったんだと感じ、とても嬉しかったです。

──樋口さんのパッションの源は何なのでしょう?

この会社は、なんだか自分そのものだという感覚があるんです。「お迎えシスター」のサービスは自分の原体験から来ています。

小さい頃両親が忙しくて、家の近くの大学に「うちの娘を迎えに行ってくれる人募集」と貼り紙を出し、毎日マレーシア人やトルコ人など色んな国のお姉さんが家に来てくれる生活が6歳から18歳までずっと続きました。その時の、子供としての感覚が私の中にすごく残っていて、お迎えに来てくれた時の感情や、その時のやり取りのシーンも鮮明に覚えている。働くお母さんの子供の気持ちが分かることが会社の強みだと思っています。

サービスを作る中、もちろん大変な時期もありましたが、このサービスを諦めるのは自分を諦めちゃうことだと思ったのです。今私がこれをやめたら、誰がやるんだろうと。

──つらい時期はどうやって乗り越えてきたんですか?

大切にしている言葉があるんです。“Remember how far you’ve come, not just how far you have to go”(どこまで行けるかも大事だけれど、今まで自分がどれほどの道のりを越えてきたか忘れないで)


樋口の大切にする言葉。

会社を立ち上げた1年目の2016年頃、悩みすぎてネットで調べて出会った言葉です(笑)。当時、まだ社内のオペレーションが整わない中、メディア露出の反響で問い合わせが殺到し、チームがパンクしてしまいました。しかし、当時の私は「スタートアップは前進が当たり前、止まってはいけない」という呪縛のようなものを勝手に感じていて、とにかく前進、やりながら考えよう、と思っていました。

結果、チームの士気は下がり、先生のトレーニングもうまくいかずクオリティーが下がり、謝罪に行く毎日で、玄関先で土下座をするようなこともありました。何のために起業したんだろう? 誰にも信用されていない。幸せを作るために起業したのに、近くの人さえ幸せにできていない。諦めたくなる気持ちがよぎった時にこの言葉に出会い、ハッとさせられました。私は過去を見てこなかったなと。

そこで、今まで蓄積してきた子供たちのレッスン動画や成長のログ、お客さんとのやりとりや過去のデータベースを見返したら、自分は間違っていた、と深く反省しました。過去より現在、現在より未来、という考え方は、時に自分を見失ってしまうな、と。今まで作り上げて積み上げてきたものにも、本当はすごく価値があるのに、先のことで頭がいっぱいで、それを見過ごしてしまっていました。

ちょっと立ち止まって、過去に関わってくれた人や機会に感謝することが、辛い時の大きな原動力になりました。
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文=瀧口友里奈 イラスト=Luke Waller

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