70歳で新分野に参入、元スキーコーチが考える「成功するリゾート」の作り方

ラグジュアリーリゾート「ヴァイスロイ・バリ」(Photo by James D. Morgan)


アペリティフのシェフ、ニック・ヴァンダーヴィーケンさんが表現しようとしているものも、シュロワツカさんの考えと重なる。

「19歳の時に、当時働いていたレストランのシェフに言われた言葉があります。そこはとてもクラシックなフランス料理の店で、若かった私は、1年働いて、すっかり退屈してしまいました。そこで、別の店で働きたいと言ったのです。すると、シェフは、『料理の流行なんて、あっという間に移り変わる。結局、流行を追い求めるのではなく、自分自身の料理をしなくてはだめだ』と言われました」

結局その店は辞めたが、20年経ったいまでも、ヴァンダーヴィーケンさんには忘れられない言葉だという。


アレックス・マッキンストリー(左)とニック・ヴァンダーヴィーケン(右)

その後、故郷ベルギーでオーナーシェフとしてフランス料理店を経営していたが、「温暖な気候の土地に移住したい」と6年前にベトナムを経てバリへやってきた。インドネシア料理とヨーロッパ料理を提供するカスケードのエグゼクティブシェフとなったのち、満を侍して、このアペリティフのエグゼクティブシェフとして、企画から関わったのだ。

「リアリティ」のある料理を

ヴァンダーヴィーケンさんがこのレストランで表現するのは、インドネシアの味覚を取り入れた、モダンヨーロピアン料理。「自分の味覚は、ヨーロッパ人の味覚」だと彼はいう。それは変えられないからこそ、そのフィルターを通して、自らの思い出であるヨーロッパの味とつなげて、インドネシアの味を表現していく。

「バリには『ブンブ』というスパイスミックスがあり、唐辛子を多用します。いまでこそ慣れましたが、島に来た当初はまったく唐辛子が食べられなかった」というヴァンダーヴィーケンさんは、インドネシア料理を自分が美味しいと思う味わいに溶け込ませていく。調理手法も、自らのバックグラウンドの手法を重ね合わせたものだ。

例えば、インドネシアの牛肉のスパイス煮込み「レンダン」を見て、彼が思い浮かべたのは、故郷の牛肉を特産のビールで煮込んだシチュー。ビールの代わりにレンダンのスパイスをつくって仕上げ、合わせるターメリックライスの代わりに、西洋風にターメリック入りのリゾットを合わせた。



スパイスは使うけれど、それはあくまでもヨーロッパ人としての解釈。だから、モダンバリ料理、インドネシア料理ではなくて、あくまでも、自分がこれまで経験してきたなかでの「リアリティ」のある料理だ。いま自分はバリに住んでいる。だからこそ、バリの食材やフレーバーを使うのも、自分にとっては自然なことだと、ヴァンダーヴィーケンさんは考えている。

「思い出と絆」を感じる料理が、最高の料理だと考えるシュロワツカさんの考えもあり、大切にしているのは、思い出に残る演出とパーソナライズした料理の数々だ。
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文=仲山今日子

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