私たちは、書かれたものを読んで声にするとき、なぜか聴きやすくする工夫を忘れてしまうことがある。どのように読めば、しっかり印象深く内容が伝わるだろうか。3点ほどアドバイスしたい。
1. スピードを落として、「句読点」をつける
聴いた内容が理解しにくくなるいちばんの原因は、読み手のスピードが速すぎるためのことが多い。書かれたものを読むスピードと、読んだものを心地よく聴き取れるスピードとでは差があるのだ。
私たちは、書かれた文字の場合、平均すると1秒間に8〜10文字を、目で追う。しかし、心地よく人の話を聴けるスピードは、1秒間に5文字前後だ。だから、目が文字を追うスピードのまま話すと、聴いている人にとっては速すぎて、内容が理解しにくくなる。
だからといって、ただゆっくり読めばいいというものでもない。それでは、間延びしてしまう。聴く側としても、緊張感が生まれない。おそらく、お経を聴いているような感覚になってしまうだろう。
そこで、内容を聴き取りやすく読み上げるには、ただスピードを落とすだけではなく、書かれた原稿に「句読点」をつけながら声にすればよいのだ。その際の「句読点」は、元の原稿にある句読点と一致するとは限らない。
読み上げる内容に合わせて、伝わりやすさを優先するべきだ。たとえば、強調したいところでは、その前で「間」を取るようにする。少し「間」があるだけで、リズムができて、聴く側の脳は記憶しやすくなる。電話番号が、途中に「−(ハイフン)」が入ることで、覚えやすくなるに似ている。
2. 原稿から顔を上げて、聴衆を見る
話し手の意志が明確になるように、原稿から顔を上げて、聴衆に向けることも大切だ。半透明のボード(ハーフミラー)に原稿が投影されて、スピーカーは聴衆のほうを見ながらしゃべることができるプロンプターという機器もある。
そこまで準備はできなくても、原稿を胸の前に持ってきて、話せばよい。そうすることで、聴き手側の顔が見えるし、話し手の声帯も開くので、声も出しやすくなる。肺に入る息の量も増えるから、抑揚などのコントロールもつけやすくなる。
3. 最初に要点や要望を話す
もし、時間に余裕があるのなら、最初に、要約を話すべきだ。その際、これから話すことがなぜ重要なのかも説明する。読むものが長いものになる場合には、あらかじめ所要時間の目安を言ったほうがよい。
聴く側に行動を促す内容や要望なども、最初に話すべきだ。たとえば、「何日までに申告する」とか、「このあと指示する場所に行ってもらいます」と言ったことなど。それで聴く側には、話す内容を注意深く聴いてもらえるようになる。
古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、書き言葉の発明で、人間の記憶力は弱くなったと語った。また、知識をよりよく伝えるためには、聴く側の理解に合わせて、表現を選び、タイミングをとることが重要だとしていた。書物より対話が重要だと考えていた哲学者の言葉は、いまの時代でも立派に通用する箴言に聞こえないだろうか。
連載:表現力をよくするレシピ
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