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2019.05.27 11:00

先生の伴走者となり、1200万人の学生に道を拓く。国、いや世界を変えるミッションを共に

人生には転機がある。一度ではない、幾度と。

その転機において、最大限の力を発揮できるか否か。思い切れるか否か。それが、転機を“好機”に変えられる唯一無二の方法と言えるのではないだろうか。

今回は株式会社ARROWSのCEO、浅谷治希は2つの転機を好機に変えた男だ。

一つは、10代半ばで人生を賭け、道を拓いた。もう一つは、シェアハウスで出会った転機を好機に変えた。ちなみにARROWSはビジネスになりづらいとされ、これまで多くの企業が参入をためらった「学校教育業界」を舞台に事業を展開している会社である。2019年4月1日に旧社名LOUPEから社名変更。リブランディングも同時に行ない、「先生から、教育を変えていく」という新ビジョンを掲げている。もちろん、事業化についても成功し、マネタイズも好調だ。

浅谷はなぜ、教育の大元である文科省や教育委員会から攻めるのではなく、現場で奮闘する先生から教育を変えていこうとしているのか。まず、今の先生たちを取り巻く環境からおさらいしていきたい。

いつの間にか、尊敬されなくなった先生たち


かつて、先生という人種は聖職者と言われ、人々から尊敬の念を受けていた。子どもたちに教育を施し、明るい未来へと導く存在であると認識されていた。今はどうだろう。決して少なくない数の先生たちが保護者と生徒の“顔色”を伺いながら、日々、教壇に立っている。

労働時間は長く、やることは常に山積み。毎日の授業の準備、部活動の顧問、報告書やプリントの作成、採点に進路指導……あげていけばキリがない。頑張っている、なのに世間からは「浮世離れ」「世間知らず」と批判されることさえある。彼らは今、職業面における社会的弱者と言っても過言ではない。

これでは、どう頑張ればいいのかわからない。ただ単調に授業だけを行なえばいいのか。ただ、それでは日本の未来はどうなる。教育における方針・戦略が変わっても、それを実践する戦術の人、つまり先生が評価されなくては、日本の教育は変わらない。

「小学校、中学校、高校......日本国内だけでも約100万人もいる先生たち。彼らが情熱に燃えて日々生徒に向き合えるようになれば、学校は次のステージに突入し、日々学校に通う1200万人の子どもたちが変わる。そしたらきっと、日本の未来が変わる。そうなるために、とにかく応援しようっていうのが僕らのスタンスです」

では、なぜ浅谷は学校教育に対してそのような思いを抱くようになったのか。あらためて彼の2つの転機を紹介する。



3年間、1日15時間の勉強。「これでダメなら、この人生を諦めようと思った」


日本では名門とされる慶應義塾大学を卒業した浅谷だが、実は中学時代の成績は芳しいものではなかった。希望の高校には入れなかったが、早慶に入りたいという気持ちだけはあった。

おそらく多くの少年であれば、「まあ、何とかなる。とりあえず高校生活を楽しもう」と楽観視するのではないだろうか。だが、浅谷は違った。

「このままだと、中途半端な人生を送ってしまうという確信があったんです。だから、高校3年間は思いっきり勉強をやりきろうと。それで伸びなかったら、この人生は“捨てよう”とすら考えました。自分を実験台に、人間の伸びしろを試してみたんです」

齢(よわい)15で、のこの思考。まさに異質。



思春期で多感な時期。遊びの誘惑も多かったはずだが、浅谷の決意は固く、1日15時間を勉強に費やし続けた。友人と遊んだ日は、遊んだ時間分だけ睡眠時間を削った。気づいたら、高校2年生が終わるころには、受験勉強までやり尽くしていた。

ここでようやく、「伸びしろ」という確信が持てたと浅谷は笑って当時を振り返る。同時に、自分の伸びしろ、というよりは人間の伸びしろに面白さを感じるようになったとも語った。

徹底的にやり切るスタンスは、今でも活きている。2012年、SENSEIノートを立ち上げた際、先生に寄り添ったサービスにするため、約2年の間で全国の先生の勉強会を行脚して1000名以上の先生に話を聞いて回った。

最初は民間企業のよくわからない人間の登場に怪しまれたりもしたが、先生のコミュニティに通い詰める内に先生たちの信頼も増し、全国に応援してくれる先生が増えていった。創業期から続いている先生の生の声に耳を傾ける文化は、今も存在しており、会社全体で1ヶ月で100名以上に先生へのヒアリングを行なうことも日常茶飯事だ。

2つ目の転機。もたらしたのは、シェアハウスの宿泊者


浅谷の2つ目の転機は大学卒業後。

大手教育会社に就職したが、仕事に満足できない日々が続き、いつしか友人とシェアハウスに住みはじめていた。オープンで開けたその空間には、起業家も多く集っていたという。

「印象に残ってる起業家ですか?スペイン語圏のグァテマラで仕事のない先生たちと日本のスペイン語を学びたい人たちをオンラインで繋ぎ、現地で雇用を生み出していた同い年の日本人起業家ですね。

話を聞いているうちに、『自分も事業をやるんだったら世の中の課題を解決するようなことをやりたい』と。そこで思い出したのが、高校時代に覚えた教育への興味だったのです」

その後、現役の教師として教壇に立つ同級生に再会し、教育への熱意を体感した浅谷。この熱意を殺してはいけない、腹は決まった。そしてピッチコンテストに参加して発表したのが先生向けのSNS、「SENSEIノート」だった。横の繋がりが少ない先生たちが、お互いの知見を交換できる場を作りたいと思い、考えた。プレゼンするなかで確かな手応えを感じた浅谷。「今こそタイミングだ」と判断し、起業した。

起業後、毎晩毎晩、夜行バスに揺られ、全国を巡った浅谷。「教師」という体でイベントに参加しては先生たちと酒を酌み交わし、先生の思いを聞き続けた。

そして次々と新事業を発表。先生向けのイベント情報が集まった「SENSEIイベントポータル」、企業と提携して教材を製作・提供する「SENSEIよのなか学」、先生の働き方を変えていく「SENSEI多忙解消委員会」。合わせて4つがARROWSのメイン事業となっている。

考古学を説くように。社会の根本にある課題に、僕は答えたい


事業に社会性は十分だ。では、浅谷はどのような経営者になりたいだろうか。

「僕の中で一番大きな欲求は、未だ明らかになっていない物事を解明したいというもの。数学者や考古学者のように、時間をかけて積み上げ、丁寧に答えを導く人。目の前にある問題を早く正確に解く人がプロ経営者と言われていると思いますが、僕は憧れない。

教育は事業としてマネタイズが難しい。ただ、世の中的に大事だけど、なかなか解決されない教育という問題において、マーケットの力を使って解決し、莫大な利益を生みつつ、そのお金を次の事業に投下していく。そういうプロ経営者になりたいんです」

思えば、戦後の起業家はそうだった。焼け野原になった地を眺め、どうにか復興させたい、人々の暮らしを豊かにしたいという熱い思いだけで事業に取り組んでいた。

浅谷の目の前にある教育業界は、もしかしたら焼け野原なのかもしれない。だが、そこには懸命に咲く草花があり、太く深く根をはる木々もある。そこに国力となるような子どもたちの笑顔の大輪を咲かせるのは、これからの教育業界を担う先生たちだ。

そんな先生たちが、己の熱意を胸により良い教育ができるよう、全力で腕を振りかぶって応援しているのが、ARROWSであり、浅谷なのだろう。

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