バーンバウムは古臭くて退屈なソーダ水メーカーの事業を立て直し、コカ・コーラと張り合えるブランドに育てあげた。彼は同社の売上を6倍近くも伸ばし、年間売上を6億ドル以上にまで上昇させた。そして昨年8月、ソーダストリームの経営権をペプシコに32億ドルで売却した。
ホロコーストの生存者の息子である現在57歳のバーンバウムは、コカ・コーラを打ち負かす以上に野心的な夢を描いている。イスラエルとアラブの間に平和をもたらすのだ。「私は国連がやるべき仕事を自分でやる」
そんな話を聞いて、大半の人は彼がクレージーだと思うだろう。
しかし、イスラエルのネゲヴ砂漠に近い都市、ラハトにあるソーダストリームの工場を訪れてみれば、彼の話の意味が分かる。そこで働くのはパレスチナ人やアラブの遊牧民であるベドウィンの人々、そしてイスラエル人だ。工場内ではユダヤ教徒とイスラム教徒が互いに助け合い、友人たちのように仕事をこなしている。
「世界を変えるのはとても難しい」と24歳のベドウィンの女性、Shurouq Elkrenawiは話した。彼女は自分より年上の男性を含む、9人の部下を抱えている。「けれど、私たちがやっていることを、世界の人たちに見てほしいと思っている」
ユダヤ人とアラブ人が共に働く職場はイスラエルにいくつかあるが、2100人が働くソーダストリームの工場は最も広く知られた場所だ。ここではイスラエルでの労働許可を得た120人のパレスチナ人が毎日、ヨルダン川西岸から通勤してくるのに加え、地元の500人のベドウィン人らが働いている。
エール大学のポリティカルサイエンス教授で、イスラエルや北アイルランドなどの紛争地帯で企業が果たす役割を研究するIan Shapiroは「ビジネスが人々をつなぐ役割を果たしている。工場がなければ人々は分裂したままになっていた」と話す。
「紛争地帯においてビジネスは政治家には出来ない役割を果たせる。企業が人々を対立から遠ざけるのだ」とShapiroは話した。