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2019.05.09 10:00

医療事故を防ぐために求められる「ガバナンス」とは

Pramote Polyamate / Getty Images

東京大学医学部附属病院(東大病院)で起こった医療事故死が世間の関心を集めている。

2018年12月1日には総合情報誌『選択』が「東大病院で「手術死亡事故」隠蔽事件」と報じた(*1)。さらにワセダクロニクルは「シリーズ「検証東大病院封印した死」」(*2)で、その背景を詳細に解説している。

一連の報道では、東大病院が医療事故を「隠蔽」した可能性が指摘されている。私も、東大病院の対応は問題があったと思う。ただ、この件は東大病院を批判するだけでは解決しない。

なぜ、担当医たちの「隠蔽」まがいの行動が罷り通ったのか。厚生労働省や医療機器メーカーは何をすべきだったか。医療安全を巡るガバナンスの点からも議論が必要だ。本稿では、この問題について論じたい。

病院と医療機器メーカーの「微妙な関係」

まずは、医療事故の概要をご説明しよう。事故が起こったのは昨年9月21日。僧帽弁逆流による重症心不全の治療目的にカテーテル手術を受けた41歳の男性が、術後16日目に血気胸の合併症で死亡した。

この患者に用いられたのは、「マイトラクリップ」というカテーテルで、昨年4月に新しく開発された医療機器だ。

新しい医療技術は何が起こるかわからない。臨床現場への導入は慎重であるべきだ。厚労省はマイトラクリップを承認するにあたり、さまざまな条件をつけた。特に心機能を重視し、その指標である左室駆出率が30%以上の患者しか使用を認めなかった。

ところが、この患者は心機能の低下が著しく、術前の検査で左室駆出率は17%しかなかった。本来、マイトラクリップが適応できる患者ではなかった。積極的治療が裏目に出たことになる。

ただ、私は、東大病院の担当医が厚労省の定める適格基準を守らなかったことを批判するつもりはない。医療現場では厚労省の基準を無視して、患者を治療することは珍しくない。病気が進み、残された時間が少ない患者には、効果は不明瞭でリスクが高い治療を受ける権利がある。

医師が、そのような患者の期待に応えようとするのは当然だ。ただ、医師は結果に対して誠実に対応しなければならない。治療の結果が悪かった場合には正直に経過を家族に説明しなければならない。そして、医師は自らが行った医療行為に関して患者のプライバシーに配慮しながら、情報開示、情報共有に努めなければならない。これが数多くの臨床研究不祥事を受けて確立した世界のコンセンサスだ。

ところが、東大病院はそれとは異なる対応をした。東大病院が作成した死亡診断書では、「病死及び自然死」の項目にチェックがあり、「手術」の項目は「無」とされていた。

さらに、東大病院は、この件を日本医療調査安全機構にも報告していなかった。我が国の医療事故調査制度では、医療機関が「予期せぬ死亡」と判断した場合、同機構に報告することになっている。東大病院は「病死及び自然死」と判断したため、日本医療調査安全機構に報告しなかったのだろう。

東大病院の一連の対応には疑問符がつく。この件は、参議院厚生労働委員会でも取り上げられ、外科医である足立信也議員(国民民主党)は「報道が事実とすると完全に隠蔽」と批判した。

これに対し、大口善徳・厚生労働副大臣は、医療法第25条にもとづく立ち入り検査について言及した。この質疑を受けて、1月16~17日、厚労省関東信越厚生局および東京都保健福祉局が東大病院に立ち入り調査に入った。

このようなやりとりの中、東大病院は死亡事故を日本医療安全調査機構に報告した。死亡診断書の記載が間違っていたことを認めたことになる。東大病院は、なぜ「病死及び自然死」という見解を変えたのか。
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文=上 昌広

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