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Next Commons Lab ファウンダー/Commons共同代表の林 篤志

「社会を変えようとすることは諦めた。新しいOSを自分たちでつくる」。テクノロジーを活用したコミュニティづくりで注目を集める 「地方創生の旗手」の出発点は、意外にも社会変革への諦観にあった。日本の地方からアジアにまで広がっていくクレイジーな構想に迫る。

のどかな田園風景を残す名古屋近郊の一宮市で生まれ育った少年の楽しみは、水槽の「観察」だった。砂利を敷き、岩を入れ、水草を生やす。そこに近所の川で釣り上げたナマズ、フナ、コイを入れる。やがて水草も成長し、魚たちはそれぞれ 居心地の良い場所を見つけ、共存していく。「今、思えば」とNext Commons Lab(NCL)ファウンダー/Commons共同代表の林篤志は口を開く。

「僕がつくっていたのはコミュニティと同じですよね。水槽はひとつの社会で、枠をつくってみて、その中で魚たちがどう動くかをワクワクしながら見ていた。今と変わらないです。まずは仕組みをつくる。そこに人がやってきて、何かが起きる......」。

地方創生の旗手として、まず注目を集めたのが、2016年に岩手県遠野市で始めたプロジェクトだ。総務省の地域おこし協力隊制度なども活用し、遠野に住民票を移すことを条件に、地域資源を活用して起業を目指す人材を募集した。全国各地から83人の応募があり、一挙に14人を採用。NCLメンバーは行政と連携しながら彼らの起業を支援している。

遠野は国内有数のビールの原料であるホップの産地。1970年代後半〜80年代のピーク時には200戸以上の農家がホップを栽培していたが、30戸弱まで減少し、生産量も4分の1まで落ち込んでいた。理由は、地方ならどこでも直面する過疎化であり、農業の担い手不足だ。

遠野には以前から、ホップを利用してビールの里を目指そうという動きがある。また民俗学者・柳田國男が著した「遠野物語』の舞台としても知られる民話の里でもあった。「食×酒×観光」のマッチングで事業が成立するのだ。17年11月には、NCLのメンバーが「遠野醸造」を設立し、その半年後に自家製クラフトビールが楽しめるブルワリーパブを開店した。新たなビアツーリズムの可能性を切り開く。

「アップデートされた共同体の形を探求する」というNCLのビジョンに惹かれて移住を決めた、というプロジェクトの担い手も生まれた。いずれも遠野に縁がない者ばかりだ。ビジョンに共感したという理由だけで集い、地域の人たちと連携しながら新しいコミュニティがつくられているのだ。

NCLでは遠野と同様に、地方に残る資源を活用した起業家支援を全国10カ所以上で進めている。いずれも起業家を10〜15人ほど選抜し、移住をすることが原則だ。始動が決まった場所には、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県南三陸町、福島県南相馬市といった自治体も含まれる。復興の新たな担い手も彼らが募る起業家志望者から生まれてくる。

台湾南部の高雄を拠点に、Commonsの海外進出も準備中だ。背景として「台湾には自分たちで国をつくっていくんだという若者たちの勢いがある。それに日本の地方創生の事例を学びたいと熱心な人も多い」と林は明かす。現地の若者や政府とも協力し、カーボンオフセットのデジタルマネーの導入などを検討中だ。

将来的な目標は100カ所の拠点、100億円の産業、1,000人の起業家、1万人のコミュニティをつくること。ややクレイジーなものかもしれないが、壮大なスケール感が活動の推進力となっている。


台湾の若手起業家やエンジニアらを巻き込み、現地 政府とも連携しながら地方創生の政策づくりに携わる。

文=石戸 諭 写真=小田駿一

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