「私たちの動きの原動力になっているのは、地球温暖化です」というヨースト氏は、言葉を続ける。
「EVに本格的に取り組みだしたのは、欧州連合(EU)が定める自動車の排ガス中のCO2排出量規制をクリアするためです。当初は2020年までに走行キロあたり95グラムだったのですが、さらに2030年には60グラムになるともいわれているし、さらにその規制が前倒しになるかもしれません」
規制をクリアできないと、1台単位で罰金を支払う義務が課せられる。「いま(EV開発を)始めないと間に合わないのです」というドクター・ディースの言葉には切羽詰まったものが感じられる。
ジュネーブ・ショーでVWは、電気自動車に使うプラットフォーム(車台)である「MEB」に、ドアもない、あざやかな緑色のオープンボディを載せた「ID.バギー」を発表した。
1960年代に米国の西海岸では、VWビートルをベースにカスタマイズしたクルマが若者を中心に流行した。今回のID.バギーは、その自社内のデザインスタジオで、そのときのイメージを再解釈したものだ。
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「EVの可能性を追求したモデルです。(かつてのカスタム・ビートルのように)若いユーザー層にアピールするクルマだって作れます。そのために私たちはMEBプラットフォームをサードパーティに販売していくつもりです」
たしかにプラットフォーム開発は巨額の費用がかかる。もし、そこにモーターと制御システム、バッテリー、サスペンションシステムまで組み込んであったら、クルマの開発がさらに容易になる。かつてのデューンバギー、ビーチバギー、それにビートルの車体を切り詰めたオフロードで楽しむ「バハバグ(Baja Bug)」のように、思い思いにEVが作れるかもしれない。
「EVに舵を切るなかで、私たちは車載コンピューターの数を集約するとともに、社内開発に切り替えます。それで大きくコスト削減が出来ます。社内でのアップデート化も簡単になります」
ヨースト氏は言う。
「同時に、私たちはそこに新しいビジネスを確立したいと考えています。ひとつは、ID.バギーで提示したプラットフォームの販売。並行して、自動運転のプログラムをさらに推し進めるとともに、市街地で通信を使っての駐車場さがしやカーシェアリングなど、(EVと親和性の高い)ビジネスを展開していきます」
もはや高い馬力とプロフェッショナルが手がけた流麗なスタイリングでクルマを売る時代ではない、ということかもしれない。自分のスタイルに合うようにクルマを作り、乗る。EVとともに、そんな新しいトレンドがやってくるかもしれない。