しかし、それからわずか10日足らずで、この機関は閉鎖に追い込まれた。委員会のメンバーの人選に関して、当初から強い批判の声があがっており、一部の委員が辞任した後、グーグルはATEACの継続を断念した。
グーグル社員らが、非難の矛先を向けた一人が公共政策の専門家のケイ・コールズ・ジェームズだ。保守系シンクタンクの「ヘリテージ財団」所長を務めるジェームズは、これまで性的マイノリティ(LGBTQ)や移民に否定的な発言を繰り返しており、彼女の罷免を求める嘆願書には、2300人以上のグーグル社員のほか、外部のAI専門家らが署名を行った。
「ジェームズのような人物にAIの倫理を監督させることは、グーグルのAIの倫理と公正を著しく損なうことにつながる」と彼らは主張した。
その後、委員会から行動主義経済学者でプライバシー研究者のAlessandro Acquistiが、脱退を表明し、デジタル倫理学の専門家で哲学者のLuciano Floridiも「ジェームズを委員会から外すべきだ」と発言した。
委員会にはもう一人、世論の強い非難を浴びたメンバーがいた。ドローン開発企業のCEOを務めるダイアン・ギブンズだ。彼は以前、米国軍のドローン活用を推進しており、ドローンの軍事利用に関する議論を再燃させることになった。
グーグルは米国防省との間で、AIを活用した軍用ドローンの映像解析を請け負う契約を結んでいたが、数千名の社員らが「戦争ビジネスへの加担」に抗議するデモ活動を行った後、契約の更新を見送った。
激しい抗議を受けたグーグルは4月4日、ATEACを閉鎖するとアナウンスした。
グーグルの広報担当はフォーブスの取材に対し「現在の状況下ではATEACが適切な役割を果たすことは不可能だ。しかし、当社は今後も適切なAI運用の道を探るため、外部の声を聞き入れる方法を探っていく」と述べた。
抗議活動を主導したグループは、賛同者に対し「ヘイトに対して、決して妥協しない姿勢を見せたことに感謝する」とツイッターで述べた。
今週、AI分野で抗議された企業はグーグルだけではない。4月3日、AIの専門家チームはアマゾンに警察への顔認証システムRekognitionの提供をやめるよう、公開声明で要望した。専門家らはアマゾンの顔認証が、黒人女性を認識する場合に白人男性と比べて、著しく高い頻度でエラーを発生させると述べた。
「アマゾンの顔認証システムRekognitionが、国民の権利を犯していないとする法的根拠や基準は、どこにもない」と専門家チームは主張している。
AIの運用に適切な規制を設けるべきだという声は高まっているが、現状ではそのような法律は存在しない。