「絶対に私の手でこの世に残しておかなければならない。そういう気持ちで作りました」
自ら開発した木製点滴スタンド「feel」を前にそう語るのは、福井県に本拠地を置くメディディア 医療デザイン研究所代表の山本典子だ。
看護師歴18年。4人の子どもを育てながら、脳神経内・外科、救急救命外来、小児科など「患者ケア」の最前線に立ち続けてきた。その現場の経験から、看護師たちが外科用テープをよく床に落としてはホコリだらけのままむき出しで持ち歩いていたことに着目し、プラスチックのカバーを付けたテープカッター「きるる」を制作。現場から賞賛を受け、2007年にはグッドデザイン賞を受賞した。
その成功を機に起業し、続いて着手したのが、チューリップやクマの顔などをデザインした子ども用木製点滴スタンドのfeelだ。2018年7月から放送された小児外科を舞台にした山崎賢人主演のテレビドラマ「グッド・ドクター」の小道具にも採用され、話題になった。
「『きるる』の次に何を作ろうかと考えた時、小児科の子どもたちの姿が浮かびました。抗がん剤をぶら下げて近づいてくる金属製点滴スタンドの『カラカラ』という冷たい音を聞いただけで体をこわばらせ、つらそうにするんです。病棟にあった子どもたちの絵には、“嫌いなもの”第2位として点滴スタンドが描かれていました」
抗がん剤治療には、吐き気やだるさなど大人でも拒絶したくなるようなつらい副作用を伴うことがある。病気の子どもたちはそれがわかっていながらも、月に1、2回、各2時間ほど行われる治療から逃げることはできない。病棟では点滴を入れている間、看護師や保育士たちが気を紛らわせるために話したり遊んだりしながら過ごすのだが、多忙を極める看護師にはつきっきりで十分なケアができない現実もある。
「せっかく自分が作るのなら、『ずっとそばにいてほしくなる点滴棒』にしてあげたいと思いました。そのためには温かみがあるデザインで、世界に出しても恥ずかしくない洗練されたものにしたかった」
そう考えた山本は、プロダクトデザイナーの村田智明に相談。共同開発がスタートした。