メディディア 医療デザイン研究所代表の山本典子(右)とfeelのデザインを担当した村田智明(左)
村田は当初、医療機器というのは、デザインでどうこうしてはいけないアンタッチャブルな領域だと思っていたという。しかし、山本の話から、「頑丈で壊れず、洗浄しやすい」という管理する側だけに都合がいいように作られていることがわかった。
「点滴パックからぽたぽた落ちる薬液を見ているうちに、人は気持ちからだんだん病人になっていく。“治すため”の医療器具であるはずなのに、これは一体どういうことか。そういう意味でも、デザインで患者のメンタリティに配慮するのは非常に大切だと感じました」
こうして、山本の現場の声に、「行為をデザインする」という村田のデザイン視点が加わった。
無味乾燥な見た目は、家具のように木のぬくもりがあるものに。トイレや歯磨きで移動する時も、足をひっかけにくく安定性もある5本脚にした。キャスターを隠すことで髪の毛やホコリも絡まず、かつ、看護師が消毒洗浄しやすい衛生的なデザインに。点滴パックは表から見えない設計にし、お見舞いに来た人がメッセージを書き込めるボードも搭載した。
売り出すと、現場の看護師から「看護の心ってこういうことですよね」という感動の声があがった。普通の点滴棒の2倍ほどの値段にもかかわらず、一目ぼれし、院長を説得して導入してくれた看護師もいた。
「なにより病棟の子どもたちの間で取り合いになったんです。歩ける患者さんを想定して開発しましたが、ベッドから起き上がれない子たちにも使われるようになりました」
これからも患者に寄り添う看護師経験者にしかできない製品開発を続けていく。