当時、DNAシーケンシングには高額の費用がかかり、まだあまり行われていなかった。だが、マングバットと共同創業者らは、費用はいずれ大幅に下がり、科学者たちは何十万、何百万ものヒトゲノムのシーケンシングを行い、結果を比較し、病気の研究につなげていくようになると考えた。
スパイラルが目指したのは、クラウドコンピューティングを活用し、わずかな時間で膨大な数の遺伝子セットを高速処理することだった。
ただ、2012年にはフォーブスが選ぶ注目の「30歳未満30組」科学・ヘルスケア部門で選出されたマングバットは当時を振り返り、「ソフトウェアとゲノミクスを結びつけることは、簡単ではなかった」と語る。
どちらの分野に関する専門知識も持っている投資家、自分には理解できない分野でも賭けてみようと思う投資家は、どちらもなかなか見つからなかったという。
スパイラルはベンチャーキャピタルからおよそ500万ドル(約5億5700万円)を調達したものの、2017年にはソフトウェア会社オミシア(現在はファブリック・ゲノミクス)に非公開の価格で買収されることになった。
当初の目標に向け再スタート
それから1年ほどがたち、マングバットは買収後の事業の中心が当初目指していた集団レベルの解析から、患者個人のゲノムを解析する臨床検査市場に移っていることに気づいた。
そして、集団レベルの全ゲノムデータの比較を主な事業として再スタートすることを決意。アクセラレータであるYコンビネータのプログラムへの参加を経て、再びスパイラル・ジェネティクスのビジネスを立ち上げた。
スパイラルは現在、2つの学術機関と提携している。また、クラウドコンピューティング・プラットフォームの「アジュール」を通じてマイクロソフトが提供するサービス、「マイクロソフト・ゲノミクス」のパートナー企業の1社でもある。
マイクロソフトは循環器疾患の発症の予測につながる遺伝子マーカーを見つけ出すため、スパイラルや研究者らと提携し、循環器疾患のある患者のデータベースを活用して機械学習技術のテストを行っている。
また、スパイラルは国民のゲノムの基準配列や参照配列の作成に向け、大規模な研究を行う3カ国と協力している。遺伝的特徴は集団によって異なり得るものであることから、現在の国際参照配列は、ある国における基準を正確に反映したものではない可能性がある。
例えば、すでに公開されている国際参照配列の基になっているゲノムは主に白人のものであり、これをその他の人種に基準として使用すれば、遺伝的差異を見逃すことになるかもしれない。
国単位で推進するゲノム解読プロジェクトは、「世界最大のデータセット」を生み出すことになる。マングバットよれば、スパイラルが目指すのは、それらを解読することだ。