写真提供=TENGA
日本百貨店協会の調べによると、百貨店の売上高は年々減少傾向にある。2008年に全国百貨店の売り上げは7兆円を超えていたのが、2018年には6兆円を切っている。訪日外国人に支えられているものの、自然災害や政治状況に左右されやすく安定した数字ではない。
大規模リニューアルとともに新たな顔を見せる阪急メンズ東京の「戦略」についてモードファッション商品部マーチャンタイザーの民谷啓に話を聞いた。
阪急阪神百貨店 モードファッション商品部マーチャンタイザー 民谷啓
「あのTENGAだよね?」と確認された
──アダルトグッズを百貨店の中に入れるのは、社内を説得するハードルも高かったのではないでしょうか。
実はみなさんが思っているほど、難しいことではありませんでした。
TENGAを入れたいと言ったときは、「あのTENGAだよね?」と確認されたこともあります。でも、そもそも毎週のミーティングで社長も含めて、今どういうお客さんを取り込むべきで、どういう売り方をするべきなのか。その考えをずっと共有していました。アダルトグッズをどうして入れる必要があるのか、その前提部分を細かく議論していた背景があったので、TENGAを自然な流れで受け入れてもらえたんだと思います。
──丁寧な説明と細かい共有が大切だということがわかったのですが、業界としては初めての試みです。その流れがスムーズだったのは、業界の「危機感」があったからでしょうか。
危機感はあったと思います。百貨店のファッション売り場は厳しいと言われています。ただ阪急メンズ東京自体の売り上げは好調でした。
それでも今回大規模リニューアルをするべきだったのは、百貨店とお客さんの距離がどんどん遠くなってしまっていると思ったからです。百貨店は一番お客さんに近い存在、お客さんを理解している存在であるべきなのに、楽しめる空間になっていない。そもそも楽しませる相手のことをよくわかっていないのかもしれない、的外れな楽しさを提供していたのかもしれない、と考え始めました。
逆に今、最もお客様を楽しませているところはどこか考えた結果、ストリートブランドに行き着きました。彼らは平均的な楽しさを提供するのではなく、絞り込んで狙った人たちを楽しませること、熱狂させることができていました。まさにお客さんと一緒にブランドやムーブメントをつくって来たのです。
一番近い距離にいた人たちを百貨店はきちんと取り込めていなかった。今みなさんが考えている百貨店は「いい子」すぎるのかもしれません。
だからこそ「脱・百貨店」をしていかなければいけません。今までの常識にとらわれず、目の前のお客さんと対話していく必要がある。その結果を反映した実験場として阪急メンズ東京のリニューアルが生まれました。ここで成功すれば、大阪でも同じ取り組みをしていく予定です。