企業経営の本質とは何か―― その答えがわかる“自然科学系ノンフィクション” [CEO’s BOOKSHELF]




ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則

ジム・コリンズ/ジェリー・I・ポラス
日経BP社 1942円+税/475ページ

◎ジム・コリンズ
スタンフォード大学大学院修了。同大教授などを経てコロラド州で経営研究所を主宰。ピーター・ドラッカーの教え子。『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』『ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる』は全世界でベストセラーとなっている。

安田隆夫 株式会社ドンキホーテホールディングス代表取締役会長兼CEO

 いわゆる経営書といわれる本は、先に著者の持論があり、持論を補強するためにファクトを集めて、自分が言いたいことがいかに“正論”であるかと展開していきます。しかし、経営論は百人百様であり、あまり参考にはなりません。一方、この『ビジョナリーカンパニー』は、最初に膨大な客観的事実を集め、予断と偏見を排して、仮説を立て、検証していきます。

 私は雑多なものを乱読する活字中毒で、生命の起源や宇宙、遺伝子やウイルスなど自然科学系ノンフィクションが好きなのですが、自然科学のアプローチをとった『ビジョナリーカンパニー』は、“経営書”というよりは“自然科学系ノンフィクション”だと私は考えています。

 30年、50年という長期的な企業経営のデータを集めると、繁栄を誇る企業もあれば、衰退の坂を転げ落ちる企業もある。その違いは何なのか。共通項を探り、分析していく。さらに、仮説が覆される経緯も記されています。

 ジャーナリズムは、即時性や現象を読み解く点に価値があります。一方、長期的スパンで自然科学的に観察する手法からは、違う価値が見えてきます。それは、「本質性」です。
企業活動は、「神の目」から見れば、人間という生物の集団行動です。その集団が、危機をどう乗り越え、栄枯盛衰をどう歩んだかを分析すると、本質が見えてきます。

 7年前、私は経営方針に迷っているときに、この本に出合いました。本の中に当社の類似点を発見したときは喜び、また、当社の不具合やビジョナリーカンパニーに及ばない点を発見して、早急に体質改善を行いました。

 企業の理念は空理空論が多いのですが、改めて当社の理念集をつくらなければと真剣に意識しました。理念は普遍的なものでなければならないので、そう簡単にはつくれません。

 ドン・キホーテは長い歳月をかけて議論し、3年前に『源流』という理念集を完成させました。「流通の源」という意味です。その中に「果敢な挑戦の手を緩めず、かつ現実を直視した速やかな撤退を恐れない」という項目があります。「撤退の勇気」を堅持するからこそ、次の前向きな挑戦が可能になる。これは、『ビジョナリーカンパニー』を私なりに消化して書いたものです。

 理念を無視して一時的な利益を得られる局面があるかもしれませんが、理念なき利益など、悪銭身につかずです。

 いずれ私は引退し、生命的な役割も終えるでしょう。そのあと、苦労してつくった会社が隆々とした企業になるのが夢です。では、時代を超えて存在し続ける企業の本質とは何か。その答えが同書にあるのです。

安田隆夫

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