ビジネス

2019.02.23 11:30

米国テック界から20年前に消えたビリオネアの「妖しい復活」

イラストレーション=ピエールルイージ・ロンゴ


ドットコム・バブル崩壊から数年後の06年、リーマンツは静かに、革新や成長よりも収益性を重視した法人向けソフトウェアの帝国を築きにかかった。
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非公開会社のESWキャピタルを使い時価総額1000万〜2億5000万ドルのソフトウェア・ベンダーを何十社と買収し始めた。Nextance、Infopia、Kayako、Exindaといった社名には、さほど聞き覚えがないかもしれない。

しかしそれらのベンダーが供給する顧客サービスや文書管理用のソフトウェアは、無数の企業を陰で支えている。リーマンツのチームはそうしたソフトウェアの保守契約から定期的な収入を得ることを追求した。コストを削るために、研究開発費や従業員の福利厚生費はばっさりと切った。

リーマンツは買収のターゲットにした中堅企業の創業者や株主に対し、即金を提示する。アーンアウト条項も付帯条件も付けないので、交渉は通常45日以内にまとまる。だが一般社員にとっては、話が違う。彼らの大半は安価な国外の労働力で置き換えられてしまう。昨今では米国のIT企業が国外の労働力に頼るのは普通のことだ。
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ギグ・エコノミーの進展に伴い、アマゾンのメカニカルタークやクラウドソーシングのアップワークのようなフリーランサーのハブも形成された。リーマンツはしかし、この戦略を極端なまでに徹底している。

彼の仕事を請け負う者たちは、自分のコンピュータにスパイウェア(ユーザーに関する情報を収集し、それを情報収集者である特定の企業・団体・個人等に自動的に送信するソフトウェア)をインストールしなければならない。

クロスオーバーの生産性チームは、それを通じてプログラマーがマウスをクリックした回数や、キーボードを叩いた回数を把握することができる。スパイウェアは10分ごとにスクリーンショットを撮り、場合によってはウェブカメラで写真撮影さえ行う。

それでもプログラマーは続々と応募してきている。おかげでリーマンツはこれまでになくリッチになった。30億ドルの純資産を積みあげ、50歳にして「フォーブス400」に返り咲いたのだ。ところが復帰を祝うどころか、彼はこの記事のための取材を拒絶した。「私は人付き合いがとても苦手なんだ。内気なんだよ」と、リーマンは17年に本誌に語っている。

目立ちたがらないのも無理はない。リーマンツは20年前の学生プログラマーたちのヒーローから、IT業界に凶兆をもたらす者へと変身を遂げた。彼が世界中から募集するクラウド軍団は、賃金水準を押し下げ、プログラミングを工場労働と同列のものに変えつつあるのだ。

後ろ暗いビジネスモデル

リーマンツのビジネスの才覚は運命づけられたもののようにも思える。父親のグレゴリーはGEの伝説的なCEOジャック・ウェルチに直接仕えていた人物だ。リーマンツ家とウェルチ家が一緒にバカンスを過ごしたこともある。

グレゴリーが83年にGEを辞してダラスのメインフレーム向けソフトウェア・ベンダーのCEOに就任して以降、リーマンツはプログラミングに手を染めるようになった。同時に起業にも強い関心を抱き、父親が家に持ち帰る事業計画に頻繁に目を通した。スタンフォードで経済学を専攻していた彼は、ジャック・ウェルチや自分の父親が買収したくなるような事業を生みだしてやろうと固く決意していたのだ。

セールスの効率化に対するリーマンツのこだわりがトリロジーを生んだ。90年、21歳の彼は両親の反対を押し切ってスタンフォードを中退し、ソフトウェア会社を創業する。

6年後、彼の会社は1億2000万ドルほどを売り上げるようになり、リーマンツはフォーブス誌の表紙を飾った。当時の彼の資産の多くは、トリロジーの一部門をスピンオフさせたpcOrder.com(何千種類ものコンピュータ・パーツをインターネット経由で転売業者や個人に販売)から得たものだった。

株式市場の暴落でリーマンツは戦略の再考を余儀なくされた。彼はかねて高く評価してきたビジネスモデルに目を据える。

コンピュータ・アソシエイツ社のチャールズ・ウォンは、法人向けソフトウェア・ベンダーを次々と買収し(リーマンツの父親の会社も1987年に買収された)、コストカットを敢行。IT業界の大きなセグメントを牛耳り、ビリオネアになっていた。リーマンツはトリロジーの支配権を固め、行動に移った。

トリロジーはソフトウェアの保守契約(特にフォードなどの自動車メーカーと結んだそれ)のおかげで、依然としてキャッシュを生みだしていた。それに加えてソフトウェアの特許もあった。06年、同社は経営の傾いたデータ管理用ソフトウェア・ベンダーのヴァーサタを330万ドルで買収する。

契約締結後、リーマンツはヴァーサタにトリロジーの一部を吸収させた。そしてヴァーサタを使って企業買収を行ったり、サン・マイクロシステムズ、シアーズ、トヨタなどの企業をトリロジーの特許を侵害したとして訴えたりし始めた。「ある時期には、彼らは間違いなく製品の販売よりも特許訴訟で儲けていたでしょう」と、リーマンツやヴァーサタを相手に戦った法廷弁護士のトム・メルシャイマーは言う。
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文=ネイサン・ヴァルディ 翻訳=町田敦夫

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