売り子さんに声をかけ、ビールを注文。現金で支払う。野球場では昔から、この光景が風物詩となっている。クレジットカードや電子マネーといった決済手段が導入されているものの、球場内では未だに「現金決済」への需要は根強い。
そうした中、楽天が驚くべき発表をした。2019シーズンから楽天イーグルスとヴィッセル神戸の本拠地スタジアムの「完全キャッシュレス化(非現金化)」を実施。スタジアム内のグッズ、飲食、当日チケットなど、あらゆる支払いがキャッシュレスとなり、原則的に現金が利用できなくなる。使用できるのは各社のクレジットカードのほか、楽天ペイ(アプリ決済)、楽天Edy、楽天ポイントなどになるという。
楽天の発表後、バレーボールのヴァレオス北海道が完全キャッシュレスによる大会運営を実施を発表した他、アメリカのMLBのタンパベイレイズが2019シーズンからの完全キャッシュレス化を発表するなど、将来的な完全キャッシュレススタジアムの実現に向けて動きだす球団も増えてきた。
なぜ楽天イーグルスは、「完全キャッシュレス化」に踏み切ったのか。楽天野球団 経営企画室 室長の江副翠に話を聞いた。
「日本のキャッシュレス決済を牽引」の気概で
──単刀直入に聞きます。なぜ、完全キャッシュレス化に踏み切ろうと思ったのでしょうか?
私たち楽天野球団は、楽天グループのプロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」の運営を行うとともに、楽天というグローバルな企業の中にあり、東北から様々なチャレンジを行ってきました。
楽天グループは「楽天ペイ(アプリ決済)」をはじめ、「楽天Edy」、「楽天ポイントカード」、「楽天カード」など、キャッシュレスで決済可能な多彩なサービスを提供しております。また、世界的に遅れをとっている日本のキャッシュレス決済の普及を後押ししていく使命を持っていると考えています。
そうした中、「楽天生命パーク宮城」と「ノエビアスタジアム神戸」という2つのリアルな場所で、キャッシュレス化を進めていくことが日本のキャッシュレス比率を高める起爆剤の1つになるのではないか。そのように考え、2018年より本格的に検討を進めてまいりました。
──現場はすぐに完全キャッシュレス化を決められたのでしょうか?
最初は、「いきなり完全キャッシュレス化は無理です」と思いました。ご来場いただくお客さま全員がいきなり完全キャッシュレス化に対応するのは難しいでしょうし、目先の売上が減ってしまうこともあるかもしれません。
「段階的に導入していくのがいいのではないか」など、社内では何度も議論を重ね、楽天、楽天野球団そしてヴィッセル神戸の関係者と話を進めてきました。
──最終的に「完全キャッシュレス化でいこう」と決めた理由はどこにあったのでしょうか?
現金決済とキャッシュレス決済の両方を認めてしまうと、キャッシュレス決済のメリットを最大限活かしきれない。お客さま、スタジアムに出店いただいているテナント、そして事業者である球団とそれぞれが中途半端になってしまう可能性がありました。
既存の仕組みを一気に変えるのは「エベレストを登る」くらいハードルが高いことですが、登り切ったら、今は見えていないつぎのステージに上がっていけるのかもしれない、と。その先に、ファンの皆様に対しても、キャッシュレス決済のお得さや便利さを体感いただき、新しいワクワクする観戦体験をご提供できるのではないか、そう考えています。
現金のチャージ機を24台から100台に
──楽天生命パーク宮城の平均客層はどれくらいの年齢でしょうか?
私たちは「ファミリー層」をメインターゲットに置いているので、ファンクラブの会員は親世代にあたる30代後半〜50代が多いです。とはいえ、60〜70代以上のお客さまもいますし、もちろんお子さまも多く来場される。応援してくださるファンの皆さまを考えた時に、完全キャッシュレス化で果たして良いのか。昨シーズンにテストトライアルも実施しながら、そこも議論を重ねました。