私は本を読んで一番気持ち良いのが「目からウロコが落ちる」瞬間です。正にこの本を読んだときに目からウロコが落ちました。「ポジショニング戦略」という題名から、マーケットを4象限に分け、競合がどこにいてホワイトスペースが云々という整理学の本だと思っていました。
ところが、この本には、ポジションというのは「人間の脳の一等地にポジション(記憶)させることである」と書いてありました。消費者の頭の中に、自社の商品やサービスをどうポジショニング(位置づけ)していくかを考えることであると。
例えば、「日本で2番目に高い山は?」と問われたら、あなたはすぐに答えることができるでしょうか。そう、多くの人は1番しか覚えていないのです。だからこそ、狭いカテゴリーの中でもいい。他には類を見ないオリジナル性の高い商品やサービスを生み出し、人の記憶に残るNo.1になる。これが「ポジショニング戦略」の考え方だというのです。
私は、このポジショニング戦略こそがコミュニケーション戦略において最重要であると考えています。スマホゲームアプリ『モンスターストライク(以下、モンスト)』を開発した当時、ひとりで遊ぶスマホゲームや非同期型のオンラインゲームはいくつも存在していました。ただ、「みんなで集まって遊べるスマホゲーム」はひとつもありませんでした。
そのポジションを目指して生み出されたのがモンストであり、大ヒットは、偶然でもなく、ラッキーでもなく、No.1のポジションを取るべくして取った、ポジショニング戦略の成果そのものでした。そして、モンストが提供開始から5年経った今も、全世界で4500万人以上のプレーヤーを有し、トップクラスの地位を守り続けているのも、人の記憶にポジショニングできたからこそだと考えています。
この5年間で類似ゲームもたくさん出てきましたが、「同じマーケットで競合プレーヤーが増えれば増えるほど、No.1プレーヤーのバリューが上がる」という、本書の教えも証明しながら、モンストはロングランヒットを記録し続けています。
ものが溢れ、成熟してきた経済の中でも、このポジショニング戦略をもとに考えれば、まだまだ新しいマーケットを切り開くことができます。私たちミクシィが取り組んでいる、スポーツ事業やウェルネス事業も、「コミュニケーションの場を提供する」と考えることで全く新しいポジショニングができると信じています。
「誰のために、何をやるのか」を軸に、「一番に覚えてもらえるモノ、一番記憶に残るモノ」を生み出し続ける。本書はこれからも、私のビジネスの根幹であり続けてくれるでしょう。
title : ポジショニング戦略[新版]
author : アル・ライズ / ジャック・トラウト著
data : 海と月社 1944円(税込) 272ページ
きむら・こうき◎電気設備会社、携帯コンテンツ会社などを経て、2008年にミクシィ入社。スマホゲームアプリ「モンスターストライク」プロジェクトを立ち上げ、大ヒットへ導く。18年6月より現職。