すると、これが大当たり。10年2月10日にウェブサイトをローンチするや、ファッションサイトの「GQ.com」や「Vogue.com」に取り上げられたことも手伝ってユーザーが殺到したのだ。メガネの数が足りず、やむなく48時間後にはホーム・トライオンを一時停止するはめに。
それこそ、売り切れの表示に業を煮やしたユーザーから「それなら、おたくのオフィスで試したい」という電話がくるほどだった。当時、ワービー・パーカーはブルメンソールのアパートをオフィス代わりに使っていたため、急遽、4人は食卓にメガネを並べ、鏡を用意して希望者には居間で試着してもらうことにした。購入手続きは、ギルボアのパソコンで行った。
「彼らにとっては最高の顧客体験ではなかったでしょうね(苦笑)。でも、ユーザーの中にはメガネを手に取ってみたい人もいることがわかりました」(ブルメンソール)
外壁のイラストが華やかなレキシントン店
ここで得た知見をもとに、ワービー・パーカーは次のオフィスでも一室を開放してメガネを販売。数百万ドルを売り上げている。その後、一定期間だけ出店するポップアップストアで実験を重ねたところ、手応えが得られたので全米各地への出店を決めたという。とはいえ、ブルメンソールは「ウェブか店舗かの二者択一ではない」と指摘する。
「店舗で買い物をする人の多くは、ウェブサイトで商品を下見してから来ます。逆に、店で見たものをあとからウェブサイトで購入する人もいます。実際の『カスタマージャーニー(顧客の購買行動)』は複雑なのです。ですが、私たちならそうした顧客体験も快適になるよう設計できます」
「体験」をデザインする2人のCEO
もう一つ、ワービー・パーカーを語るうえで外せないのが、社会貢献である。慈善事業を行う企業は特段珍しくない。多くの企業は、本業に余裕が生まれてからCSR(企業の社会的責任)の一環で慈善事業を行う。
だが同社の場合は社会貢献プログラム「Buy aPair, Give a Pair(一つ買って、一つあげよう)」を最初からビジネスモデルに組み込んでいる。メガネを通じて貧困層に就学機会や労働機会を提供したい、という意思ありきで創業されているからだ。前出のビジョンスプリングと提携し、メガネが購入されるごとに途上国で視力測定やメガネが寄贈される取り組みを行っている。
ニューヨーク市と提携して、児童にメガネを提供する慈善事業「Pupils Project」も展開。
そうした企業理念に共鳴する客を期待していなかったわけではないが、優秀な人材を引きつける助けになっている、とブルメンソールは明かす。「私たちがこの会社を立ち上げたのは『世界をより良くしたい』からです。他の人たちが同じように考えてもまったく不思議ではありません」
永く続く企業を作りたいと考えていたブルメンソールやギルボアらは、起業するに当たってターゲット層と、自分たちに期待されている役割やサービスを念入りにリサーチしている。その結果、次の4つの点を自らに課した。