ビジネス

2019.02.08

体験をデザインする二人のCEOに聞く、ワービー・パーカー成功秘話

デイブ・ギルボア(写真左)、ニール・ブルメンソール(写真右)


黒縁のメガネをかけて慎重に言葉を選びながら話すブルメンソールと、金縁の細身フレームのメガネをかけて軽快に話すギルボアは、傍目にもバランスのとれたコンビだ。

2人が共同CEOを務めるワービー・パーカーは、自社開発・製造したメガネをウェブサイトとアプリで直販する傍ら、全米85店舗以上、カナダで3店舗を展開(日本はウェブ・アプリ・店舗のいずれも未進出)。18年3月に行われたシリーズEで7500万ドルを獲得し、調達額の総計が3億ドル以上に達するなど、小売業界でも屈指のスタートアップへと成長した。

ワービー・パーカーはいくつかの点で従来のメガネ店と根本的に異なる。

(1)自社でデザイン・製造し、ネットを使って消費者に直接販売するビジネスモデルを採用している点、(2)社会貢献プログラムがビジネスモデルに組み込まれている点、(3)デザインに注力し、出版や音楽を含めたブランドデザインを行っている点、(4)リアル店舗も運営する「ブリック・アンド・モルタル」方式を導入している点などである。

今ではだいぶ増えてきたが、創業当時にとりわけ革命的だったのが、製品を自社でデザイン・製造し、ネットで直販したこと。それもメガネという極めてパーソナルな製品を、だ。

そもそも、アメリカでメガネの価格が高いのには理由があった。それは世界最大のアイウェアメーカー「ルックスオティカ・グループ」の存在である。同社はオークリーやレイバンといった有名ブランドをはじめ、メガネ販売チェーンのパール・ビジョン、視力検査会社のOPSMなどを所有。製造から流通、保険まで隈なくアイウェア業界を網羅し、推定2500万ドル規模の市場をほぼ一社で占有している。コストを下げる必要がないのだ。

どうすれば、この一社占有の構図を打破できるか。ルックスオティカが製造・流通網を支配している以上、従来のように製造・販売を外注する方法では勝機は薄い。では自分たちでデザインや製造を手掛け、それをインターネット上で消費者に直販すればいいのではないか? グローバル市場にリーチできるうえ、消費者のフィードバックや購買データも得られる。こうして、彼らが辿り着いたのが「D2C型eコマース」だったのだ。

当時、靴販売サイトの「ザッポス」やダイヤモンドジュエリー販売サイト「ブルーナイル」が成功の兆しを見せていた。これらは、一昔前まではネット上で売買が成立することが想像できなかった製品ばかり。それならば、メガネだって同じはず──4人はそう考えたのだ。

「カスタマージャーニー」のデザイン

もっとも、メガネという極めて実用性が高く、かつ個人のアイデンティティにかかわるモノをウェブで買うだろうか、という声があったのも事実だ。特に、「メガネ業界関係者からは絶対にうまくいかないと警告された」とギルボアは語る。

ところが、自分たちでデザインした試作品を周りに試してもらうと、なかなか好評だった。ブランドとしての信頼さえ得られれば成功する。そう確信した彼らは1人でも多くの人にメガネを試してもらうため、5本のフレームを送料無料で5日間試せるサービス「ホーム・トライオン(自宅で試着)」を始めた。
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文=井関庸介 写真提供=ワービー・パーカー

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変えるデザイナー39」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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